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発展途上国×防災・減災の課題をいかにハックするか?「Race for Resilience」アイデアソン #race4r

2014.01.21 Category:勉強会・イベント Tag: , , , ,

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発展途上国では台風、地震、津波、洪水、干ばつなどの自然災害で、想像を絶するような多数の犠牲が生まれる。こうした被害を未然に防ぐための、防災・減災技術にどのように貢献できるか。

ICTのノウハウやオープンデータを防災・減災に活用し、イノベーション推進を目的とした「グローバル防災・減災アイデアソン」が東京から始まった。
by 馬場美由紀 (CodeIQ中の人)

発展途上国では誰もが使える小さな技術が必要

1月10日、世界銀行東京事務所で開催されたのは、「Race for Resilience」アイデアソン。2月に世界各地で同時にスタートするハッカソンに向けたプレイベントである。「Race for Resilience」をあえて日本語に意訳すれば、「自然災害に対してしなやかな社会づくりのためのアイデア競争」だ。

「発展途上国における防災・減災」というと、日本で暮らすエンジニアにはなかなかピンとこないテーマかもしれない。しかし日本は古来から台風・津波・地震と闘い、高度な防災技術を蓄えてきた。しかも2011年の東日本大震災の記憶はまだ新しい。

Hack for Japan」など、ボランティアベースで被災地支援・復興に立ちあがったエンジニアもいる。例えば震災情報を収集し整理するサイト「sinsai.info」の立ち上がりは、発災からわずか7時間後だった。その後、防災や復興支援を目的とするシステムやアプリが数多く開発された。

これらの教訓や知見を、今後発展途上国で起こりうる災害のために活かすことができないか──。

この活動を強力にプッシュする世界銀行の駐日特別代表・塚越保祐氏は冒頭の挨拶で、「世界銀行は以前から発展途上国の開発における防災の重要性を提言してきた。中でも重要なのは、事前防災のあり方だ。気象予報を適切に伝えるだけでも、被害コストは大幅に押さえることができる。

途上国のインフラ状況など現地情報については、世銀に集まるエキスパートの知見や、世銀が公開するオープンデータが役に立つはず。ぜひ活用して欲しい。我々の予想もしないアイデアが、このアイデアソン、ハッカソンを通して出てくることを期待したい」と述べた。

貧困と災害は密接な関係。事前防災のために知恵を絞る

大規模災害の復旧活動には巨大な資金・人材・ロジスティックが必要だが、人々の防災意識を高めるためには、誰もが参加できる小さな情報共有の仕組みやアイデアも必要だ。何より地域防災を支えるインフラが未整備な発展途上国には、先進国の技術はそのままでは導入できない。

発展途上国で支援を行うための専門知識を持つスペシャリストやエンジニア、学生などさまざまなバックグラウンドを持つ参加者が「防災・減災」という同じゴールに向かって知恵を絞りはじめた。

約100名の参加者の中には、「Hack for Japan」や「Code for Japan」、あるいは東北各地で震災復旧活動に参加してきたエンジニアも多い。ただこれまでのIT分野のハッカソンと大きく異なるのは、途上国開発援助の専門家やアジアからの留学生も参加していること。必ずしもハッカソンの進め方に習熟していない人も多い。

Race for Resilience実行委員長の古橋大地氏(@mapconcierge)は、「私たちはゼロスタートではない。3.11後、被災地支援などにITを活用するさまざまな試みがあり、その蓄積がある。震災後、各地で立ちあがったハッカーたちのコミュニティを横つながりにさらに広げていきたい」と、Race for Resilienceの意義を語った。

続いて、Code for Japan代表の関治之氏(@hal_sk)が、多彩なメンバーがオープンマインドでアウトプットを指向し、プロトタイプの開発を通して真の課題を発見、そしてコミュニティを形成して課題解決を継続することなど、ハッカソンの意義をレクチャーした。ハッカソンを成功させるためには何よりも、「よい問題を発見すること、それをシンプルなソリューションに結び付けること」が重要だという指摘だ。

東日本大震災以降のハッカソンの成果の一つとして紹介されたのが、「Safecast」の活動。独自に小型の放射線測定キットを開発し、世界中の放射線データの共有をめざしている。

スマホアプリを活用して途上国の物流改善に取り組む瀬戸義章@YOSHIAKI_SETO氏(チームtranSMS代表)の報告も興味深かった。

途上国では生産物を運ぶインフラが不足している。例えば瀬戸氏が関わる東チモールでは、トラックのチャーター代が農民月収の7倍にも及ぶ。

だが、村に物資を運ぶトラックはやってくる。帰りの便に農産物を積み込めれば運送料は安くなるが、それを活用するためのネットワークがこれまでなかった。そこで、瀬戸氏は携帯電話やスマホを使って、ドライバーと農民との間で「御用聞き」メールをやりとりすることを思いついた。すでに東チモールの村で導入が始まっている。

「ただ、現地の人々にスマホを貸与しても使い方がわからず、利用されないという問題にも直面している。テクノロジーをいかにわかりやすく伝えるかはこれからの重要な課題だ」と話す。

貧困と災害は密接な関係を持っている。途上国の物流改善は、地域に産業を育成し、貧困から脱出するための手段の一つだ。課題解決の難しさと同時に、そこにITが寄与できる可能性をも示唆する話だった。

「川沿いの村に洪水警報を伝播させる」──現地状況を踏まえたアイデアも

今回のアイデアソンでユニークだったのは、7つの支援対象国別(フィリピン、インド、インドネシア、ベトナム、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ)にテーブルが分けられ、参加者たちがアトランダムにそこに配置されたこと。

それぞれのチームに、現地事情に詳しい開発援助の専門家や、日本に来ている留学生らがアドバイザー、ファシリテーターとして張りつく。それぞれの意見を大きな模造紙に付箋を貼り、課題を抽出する作業が始まった。

専門家の話から、災害の特性や防災体制など現地の事情に初めて気づく参加者たち。例えばバングラデシュでは平坦な国土の7割が常に洪水リスクにさらされている。逃げ遅れるだけでなく、その後の食糧不足や伝染病で命を落とす人も少なくない。91年のサイクロンでは1000万人が亡くなったという。情報インフラでは、携帯電話がテレビ以上に普及しているが、識字率が低いというネックがある。日本にいては想像もつかない話ばかりだ。

バングラデシュ・チームからは「コミュニティの中心的役割を果たしているイスラム教のモスクを防災拠点に据え、拡声器で洪水警報を発信してはどうか」というアイデアが出てきた。同時に、「路線バスやトラックなどの交通網にGPSを設置し、洪水前後の利用可能な道路情報をWebマッピングして公開する」という、IT活用も提案された。

スリランカも洪水被害が深刻な国だ。しかし、きめ細かな天気予報体制は整備されていない。そこで、河川の増水状況をリアルタイムに伝える携帯電話のSMSネットワークがアイデアとして披露された。携帯電話の普及率は87%。これを活用しない手はない。ここでのポイントは、警報発信網を人的に依存するのではなく、河川の流域沿いの村ごとに電話番号を割り振り、これがシステマティックに連携していく仕組みだ。

パキスタンやインドなどの多民族・多言語国家では文字よりもピクトグラム(絵文字)を使った伝達方法がよい、ラジオさえ普及していない村落もあるので、気球や狼煙、警戒警報を伝える船を河川に流すなどのアイデアが飛び出した。

今回参加者から最もウケがよかったのは、フィリピン・チームの一つから出たアイデア。「防災意識の啓発のために、“国民的災害ラブソング・コンテスト”を開催する」というのだ。歌って踊れるのど自慢を村々に普及させ、「いざとなったらみんな逃げろ」というメッセージを伝える。マスコミの協力を仰ぐだけでなく、スマホにミニFM放送局機能を持つガジェットを取り付け、コンテストを盛り上げるのだという。

「みんながしかめ面をしていても、防災意識は育たない。誰もが参加できる楽しいイベントやキャンペーンが必要だ」と、提案者は強調する。「楽しさ」はアイデアソン、ハッカソンの流儀にも通じる、課題解決プロジェクトにおける重要なコンセプトなのだ。

発展途上国が抱える課題をハックして、ロンドンへ

「地域が抱えるさまざまな課題に対して、コードを書き、アプリを作ることで貢献したいというエンジニアの思い。3.11以降それを強く感じるようになりました。ただ、単にツールやシステムに頼るだけでは課題は解決しない。まずは現場にどのようなニーズがあり、どのようなアイデアが有効かを、じっくり考えていきたい。

考えることの好きな人、作ることの好きな人、それをまとめることの好きな人たちが、それぞれ持ち味を出してコラボすることで、新しいソリューションが生まれることに期待しています」と、Race for Resilience実行委員会の奥本智寿美さんは語る。

Race for Resilienceは今後さらにアイデアを煮詰め、2月8~9日には東京大学駒場リサーチキャンパス(他に、石巻、名古屋会場も予定)で、実際にプロトタイプを作るハッカソンを迎えることになる。ハッカソンの募集は1月19日から。アイデアソンに参加しなかったチームの応募も受け付ける。

「グローバル防災・減災アイデアソン・ハッカソン」は、アジア諸国、ハイチ、ロンドンなど世界8カ所同時開催のイベント。各国の最優秀プロダクトは4月にはグローバル審査に進み、上位3チームはロンドンでのグローバルアワード表彰式に招聘されることになっている。

次回のハッカソンイベントの募集も始まった。プログラミングやエンジニアリングの専門知識はまだまだ足りない。「発展途上国 × 防災・減災」の課題を解決するため、いまコードの力が試されようとしている。興味のある方はぜひ参加してみてほしい。

(執筆:広重隆樹/撮影:高橋佳代子)

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馬場美由紀 (CodeIQ中の人)

エンジニアの勉強会やイベントレポート担当。技術やキャリアに関するエンジニア向けお役立ち情報もお伝えしていきます。面白い情報があったら教えてね!酔ったら記憶なくす記憶飛部所属。Twitter:@miyaq

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