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石井裕×渡邉英徳 緊急対談──「3.11」を未来記憶化するために必要なアーキテクチャとは #3.11

2014.03.18 Category:インタビュー Tag: , , , ,

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事故や災害、戦争などの資料を発掘してマッシュアップし、優れたインターフェイスを備えた、誰もが使いやすいアーカイブにまとめる。そのアーカイブを育み、記憶を未来につたえるコミュニティを形成する。

これからのデジタルアーカイブは、どのように作られていくべきか。エンジニアが果たす役割はどこにあるのか。MITメディアラボ石井裕教授と首都大学東京・渡邉英徳准教授の対談・後編です。
by 馬場美由紀 (CodeIQ中の人)

100年経ったら誰も生きていない。人類の記憶をどうつなぎとめるか

石井:アーカイブの運営ということについてちょっと伺いたいのですが、未来永劫にわたって記録を伝え続けるためには、アーカイブし整理するだけでなく、その時代に応じて解釈し理解を助ける人、さらに不足している情報、新たに起きた事象の情報を集めて編集し続ける人、などが必要ですね。100年経ったら僕たちはもう生きていられないわけだから、アーカイブ自体に自己組織的な記憶編集と伝搬のメカニズムを埋めこむ必要があります。

フィンランドの核廃棄物最終処分場「オンカロ」のように、10万年後の未来までの存続を前提として設計されている。しかしそれを管理する人類が地上からいなくなったら、何がどこに埋められているかさえ、記憶から失われてしまう。あるいは未来の人類が、好奇心に勝てずに掘り起こしてしまうかも知れない。渡邉さんの場合、永続性を考えて、サーバや資金などはどのようにされているのですか。

渡邉:データはミラーリングして、いろんな国のサーバに置いています。昨今、世界のあちこちでいさかいが起きていますが、それこそ、対立的な国々にも分散しています。また、「ヒロシマ・アーカイブ」は国や大学の研究費、地元の助成金、寄付金など、さまざまな資金で作られ、運営されています。実はこのあたりも「多元的」たるゆえんです (笑)。フラットな存在で、どこかに「顔」を立てる必要がありません。

石井:そもそものデータ収集と編集をどうやるか、ということも大切ですね。たとえオープンになっていても、それが適切にキュレーション(整理・共有)されていないと使えない。広島の場合は、ざっくり現状でどの程度の割合の現存する資料がオープン化されているとお考えですか。

渡邉:全体の1割にも満たないのではないでしょうか。「ヒロシマ・アーカイブ」は2011年7月に公開されたものですが、公開から2年以上経ってからようやく、地元の中国新聞社が資料を提供してくれました。技術だけでは地元の人は動かない、時間をかけて信頼を勝ち取るしかないんだなと、痛感しています。

「東日本大震災アーカイブ」については、朝日新聞社のデジタル系記者のかたが奮闘してくださって、早い段階で資料が提供されました。ご覧になったみなさん、私たちの仕事をほめてはくださるんですが、そこから先が遅い。やはりコンテンツだけでは無理で、人ベースでしか物事は進みません。

また、長崎の深堀好敏さんたちは、無数の写真の撮影場所やアングルを特定していくという、気が遠くなるような作業を、30年以上に渡って続けられています。今の言葉でいえば、まさにキュレーションですよね。私たちの仕事は、深堀さんたちの活動を受け継ぎ、さらにオープン化していくものなんだと思います。

それから、「東日本大震災ビッグデータワークショップ」では、東京大学の早野龍五先生(@hayano)と、放射性ヨウ素による初期被ばくについてのプロジェクトを進めました。

このときは、早野先生の呼びかけに応じて、いくつかの研究機関からシミュレーションデータが提供されました。やはり、もともとはオープン化されていなかったデータです。早野先生のように、信念を持って「人力で」データをオープンにしていく存在は重要です。流行にのって、オープンデータ!オープンデータ!と言っているだけではダメだと思います。

「当事者意識」と「空白や欠落を埋める努力」を促す仕掛け

石井:これまでお話になった以外でも、多くのデジタルアーカイブ・プロジェクトが進行中だと思います。渡邉さんが評価するものには、ほかにどんな事例がありますか。 

渡邉:ハーバード大学ライシャワー日本研究所が作成した「東日本大震災デジタルアーカイブ」がとても良いです。ユーザが資料を投稿することができるし、さらに、いくつかの資料をキュレーションして「コレクション」を作れます。アーカイブのユーザ自身が、これまで「点」だった記録をつなげて「線」や「面」として理解できます。私たちのアーカイブにはない機能で、ぜひ取り入れたいと思っています。これをアメリカの大学が作っているところも興味深いです。

また、沖縄県が制作した「沖縄平和学習アーカイブ」があります。私が総合監修したものですが、さすがに自治体が作っただけあって、資料が豊富です。話題の尖閣諸島も、戦時中は疎開先の一つだったということがわかります。また、渡嘉敷島のビーチは昔も今も美しいのに、写真には、こんな上陸用舟艇が写っています。異物感が強くて、戦争とは「身近な場所」で起きるものだ、ということを伝えやすいと思います。

そういえば、映像作家の佐々木友輔さんが私たちの仕事の感想をブログに書いてくれたんですが、「わたしはあの時、そこに居なくても良かった。別の場所に居たかもしれなかった。しかし現実にわたしはあの時、そこに居たのだ」と表現されていて、はっとしました。

マッピングされた証言の間にある空白にも、無数の人々がいるかもしれない。私たちは、そのうちの一人であってもおかしくはなかった。やっぱり、戦争や災害は、身近なところで起きるし、誰もが当事者になり得るんです。私たちの作品を通して、そうした当事者意識を促せれば。

また、「ヒロシマ・アーカイブ」を高校生たちに見せたとき「被爆者の顔写真がない場所がある。私たちが、これからそれを埋めないといけないんですよね」と言っていました。全体を俯瞰すると、空白や欠落しているところがわかる。それを埋めようとするモチベーションが湧く。そこが重要だと思います。

エンジニアは冴えたアーキテクチャで、人々を突き動かして欲しい

石井:欠落しているものを埋める。それは単にジグソーパズルを埋めるような平板な作業だけでなく、隠されたもの、抹消されたもの、忘れさられたもの、そしてそもそもこんな過ちを起きてしまった深層構造(因果連鎖)を理解するということでもありますよね。

例えば、福島の原発事故についてもまだまだ実相は明らかになっていないと、僕は思っています。黒川清先生らの『国会事故調報告』や山岡淳一郎さんの『原発と権力』を読めば、原発事故は人災の側面が強いことがわかる。 猪瀬直樹さんの『昭和16年夏の敗戦』と、若杉冽さんの『原発ホワイトアウト』を読んで、問題を隠蔽する日本の官僚システムの弊害は太平洋戦争時からちっとも変わっていないことを思い知らされました。

いずれにしても、同じ失敗を繰り返さないためにも、問題の深層構造を明らかにして次に備える必要があり、そのためにこそオープンデータやデジタルアーカイブは活かされるべきだろうと思います。

渡邉:先ほどの話とつながりますね。デジタルアーカイブを通して、歴史上の点と点をつないで線や面にする、あるいは空白や欠落を埋める。そうした作業を通して、石井先生がおっしゃる「深層構造」に辿り着けるんじゃないでしょうか。井出明先生が紹介されている「ダークツーリズム」にも通じます。

また、石井先生はオープンデータについて「情報は多ければいいというものではない。重要なのは情報量の多寡ではなく、どういう戦略を持ってそれを分析し、意味を抽出し、知識へと昇華するか」だと話されていますが、これもまた、今日話してきた内容と重なるように思います。

ところで、エンジニア向けの媒体ということで、最後に一つ申し上げたい。これまで、歴史の深層構造を明らかにするのは、小説家やジャーナリストの仕事でした。今は、エンジニアやITアーキテクトも貢献できる。歴史の点と点をつなぐ。大量の情報から意味を抽出する。まさに「情報アーキテクト」のミッションですよね。冴えたアーキテクチャで、人々を突き動かしてくれることを期待したい。

石井:いいですね。「テクノロジストに告ぐ! デジタルアーカイブに参加せよ! データの海の底の深層構造をあばけ!」というわけですね。人々を突き動かすためにはまず人の目を集める必要がある。さらに他者の視点を通して違った角度から見る。点と点を結んで隠れていた面を浮かび上がらせる。データが欠けていることの意味を知らしめる。そういう作業は不可欠です。

そのために、プログラマ、データアナリスト、UIデザイナー、インフォメーション・アーキテクトなどが貢献できることは、まだまだたくさんありそうですね。

時を越えて記憶を未来に伝えるために、アーカイブをどのように設計するべきか?
⇒前編を読む

(執筆:広重隆樹/撮影:栗原克己)

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石井裕氏
マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ教授
1956年生まれ。北海道大学大学院修士課程修了。NTTヒューマンインターフェース研究所を経て、95年マサチューセッツ工科大学準教授。メディアラボ日本人初のファカルティ・メンバー。現在MITメディアラボ副所長。2006年、国際学会のCHI(コンピュータ・ヒューマン・インターフェース)より、長年に渡る功績と研究の世界的な影響力が評価されCHIアカデミーを受賞。2012年には内閣府から「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」の一人に選ばれた。

渡邉英徳氏
1974年生まれ。東京理科大理工学部建築学科卒業、筑波大学大学院博士後期課程修了。現在、首都大学東京システムデザイン学部准教授、京都大学地域研究統合情報センター客員准教授。情報デザイン、ネットワークデザイン、Webアートを研究する「情報アーキテクト」として活動。
著書に「Google Earthアプリケーション開発ガイド KML、Earth&API徹底活用」「データを紡いで社会につなぐ デジタルアーカイブのつくり方」。

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馬場美由紀 (CodeIQ中の人)

エンジニアの勉強会やイベントレポート担当。技術やキャリアに関するエンジニア向けお役立ち情報もお伝えしていきます。面白い情報があったら教えてね!酔ったら記憶なくす記憶飛部所属。Twitter:@miyaq

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