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【緊急取材】元スクウェア・エニックスCTO橋本善久氏、ライフイズテックCTO就任の真意とは──

2014.12.09 Category:インタビュー Tag: , ,

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スクウェア・エニックスで「FINAL FANTASY XIV 新生エオルゼア」などの制作に携わったことで知られる橋本善久氏。2014年春からは「リブゼント・イノベーションズ株式会社」を設立し、様々な活動を始めている。
12月9日、IT教育の「ライフイズテック株式会社」執行役員CTOに就任することが発表された。橋本氏の近況と、これからのビジネスの方向性を聞いた。
by 馬場美由紀 (CodeIQ中の人)

ゲーム業界で培ったノウハウを武器に新会社を始動

セガでプログラマ、ゲームディレクター、スクウェア・エニックスでCTOやR&D部門長を務めるなど、ゲーム業界で17年間のキャリアを持つ橋本善久氏。「自分のホームグラウンドがゲームであることは今後も変わることはないが、さらに経験や視野を広げたい」と、2014年春にスクウェア・エニックスから独立し、リブゼント・イノベーションズ株式会社を設立した。

リブゼント(LIBZENT)は生活(Life)、仕事(Business)、娯楽(Entertainment)の3つの言葉の合成語。この3つのテーマがクロスする領域における、ソフトウェア自社開発、企業向けコンサルティング、イベントの企画・運営などを主な事業としている。

橋本氏は一方で、スクエニ時代からゲーム開発に特化した独自のプロジェクトマネジメント理論を展開・実践してきたことでも知られる。そこではアジャイルの安易な導入を戒めつつ、調査・戦略・設計・計画の重要性を指摘。ウォーターフォールとアジャイルをハイブリッド化することで、プロジェクトの不確実性を乗り越えるノウハウを蓄積してきた。

こうしたバックグラウンドを活かして、橋本氏がコンテンツの企画・開発、技術戦略立案やプロジェクトマネジメント、開発組織づくりなどについてアドバイス、顧問を行う企業が、現在7社ある。

▲ライフイズテック株式会社 執行役員 CTO 橋本善久氏

それらの企業への貢献に加えて、より深い関係性をスタートさせた企業がライフイズテック株式会社だ。

単にコンサルテーションの対象という枠を超え、橋本氏とライフイズテック代表の水野雄介氏はさらに踏み込んだ関係づくりを模索。自分の会社を運営するかたわら、12月1日付で同社のCTOに就任したことが12月9日に発表された。

ライフイズテックは、中・高校生のためのIT教育プログラム「Life is Tech!」を運営するベンチャー。2011年夏に創業し、年間のべ8,000名以上の中高生が、iPhone・Androidアプリ・ゲーム開発、プログラミング、デザインなどの最新IT技術を学ぶキャンプに参加している。

その事業は、コンピューターサイエンスやICT教育の普及に貢献している組織に与えられる「Google RISE Awards」を受賞。今年7月にはDeNA、ジャフコなどから総額3.1億円の資金調達に成功するなど、日本のIT教育を変える急先鋒として注目される企業だ。

ゲーム開発のプロフェッショナルと、教育ビジネスのニュージェネレーションが、どこで出会い、どう意気投合したのか、橋本氏に話を聞いた。

協業ではもの足りない。CTOとして新しい教育ビジネスを盛り上げたい

橋本氏とライフイズテックの出会いは、同社がスクウェア・エニックスとコラボして行った、中高生のためのゲームクリエイター育成プログラム「SQUARE ENIX GAME CAMP」だ。

キャンプ自体は2014年6月に開催されたが、ライフイズテックの水野雄介代表のプレゼンをスクウェア・エニックス側で最初に受けたのが、橋本氏だった。

「面白いことを考えている若い人がいるなあというのが最初の印象。IT教育に込める情熱に圧倒され、プレゼンの最初の3分間で『このイベントは必ず実現すべきだ』と判断していました」

実際に行われているキャンプがどんな様子なのかを見学してみようと出かけていったのが、ライフイズテックがクックパッドとコラボした女子中学生・女子高校生のためのキャンプ。

「女の子たちがキャッキャと楽しそうに、かつ真剣にプログラミングに取り組んでいる。プログラミングは男性しか興味を持ちにくいのが一般的な傾向だと思いますが、この情景はとてもインパクトがありました。

プログラミングの知識を教えることはもちろんですが、それ以前に「プログラミングの楽しさ」をいかに教えるかという事を大切にし、カリキュラムはもちろん、場の盛り上げ方も工夫されています。そのおかげか生徒さんのリピーター率も大変高い。大きな衝撃を受けるとともに、ライフイズテックの取り組みに素晴らしい可能性を感じました」

この後、スクエニ社内のゲーム開発チームにライフイズテックが紹介され、スクエニ本社社屋内で催されたゲームキャンプは成功裏に終わる。

同じ頃、橋本氏は独立の道を進んでおり、新しい事業も軌道に乗り始めていた秋頃に、偶然休みの日に路上で再会した事をキッカケに、橋本氏と社長の水野氏、副社長の小森氏が食事をする機会が訪れた。

「水野たちと一緒にご飯をしながら、これからの日本のプログラミング教育やIT産業、ゲーム産業について語る機会がありました。話をするうちにどんどん盛り上がり、彼らの方から『橋本さん、なにか一緒にやれませんか?』と提案を受けました。

元々私も『いつの日か彼らとなにかしらの協業をしてみるのもおもしろいだろうな』と考えていましたし、実を言うとリブゼントの将来の事業展開計画の中に教育分野も含まれていたくらいに教育にも強い関心があったので、二つ返事でOKをしました。

どういった形で何を行うかもその場で話し合い始め、互いの会社から資本を出資して新たにジョイントベンチャーを作る案なども出ていたのですが、どうせやるならもっと距離が近い関係でやった方が面白いと考え、私から『だったら僕をライフイズテックの一部にしてしまった方がいいし、その形が最も一緒にやる意味を持つと思う』と提案しました。彼らもそれが一番の望みだったそうで、話はものの5分でトントン拍子に決まりました(笑)」

こうして橋本氏は、水野氏が率いるライフイズテックと共に、新たな教育ビジネス市場を開拓することになった。

ゲーム性、エンタテインメント性を高めた中高生向けオンラインIT教育

現在、橋本氏は仕事の時間の多くの割合をライフイズテックに注いでいる。これまでのノウハウを活かし、ライフイズテックの文化や制作内容にフィットした形にカスタマイズしたスクラム開発プロセスを導入し、朝会にも毎日参加。プロジェクトの課題や作業の洗い出しから、見積もりや優先順位付けなどのPM作業についても、膝を突き合わせて直接行っている。

SlackやQiita:Team、Google Appsなどのクラウドサービスも活用し、チーム内のコミュニケーションの円滑化や情報共有も推進。タスクカンバンはあえて手作りのアナログ式にした。

エンジニアスタッフからは「計画が見通しやすくなり、気持ちが楽になった」という感想も出ており、早速効果は上々の様子。CTOとしての最大のミッションは、ライフイズテックのビジネスをオンライン市場に拡大することだ。EdTech市場の調査や新規サービスの設計にも精力的に取り組んでいる。

「教室やキャンプなど、リアルでのプログラミング教育を基盤にしていることが、ライフイズテックの強み。そのノウハウをベースにして、より多くの地域の中高生のみなさんに楽しく質の高いプログラミング教育を受けられる機会を提供していきたい。するとオンラインによるプログラミング教育の拡充が必要になります。リアルが強くて、オンラインも強い。そういう会社にライフイズテックを成長させる推進役のひとりに私がなれればと考えています」

そのためには、Webエンジニアリングやサーバー技術などテクノロジーの強化が必要だが、「この手のサービスは技術だけでは完結しない」とも言う。

「今の子供たちがプログラムを学ぶことの楽しさを感じるためには、ゲームの要素をカリキュラムに取り込むなど、エンタテインメント性が必要。テクノロジーとクリエイティブが合体することが不可欠なんです」

まさに橋本氏が17年にわたって取り組んで来たゲーム開発のノウハウがここで活きるわけだ。

従って橋本氏が関与する範囲は、ライフイズテックのエンジニアチームの拡充だけでなく、サービスの設計、楽しく実践的なカリキュラムの作成や、オンライン事業の方向性など広範囲に及ぶ。「今回は、教育とエンターテイメントと技術を融合させ、さらにビジネスを掛け合わせる役割となります。CTOはチーフ・テクノロジー・オフィサーの略称である事が多いと思いますが、今回はクリエイティブ・テクノロジー・オフィサーの略称でもあると考えています」と言うのはそういう理由からだ。

エデュテインメント分野を、強力な二人三脚で疾走する

オンラインのプログラミング教育が普及していくと、その先に何が見えるのか。当面は中高生対象だが、そのノウハウは年齢やジャンルを超えて活用できる。

「すそ野を広げながら、かつ高いレベルをも目指したい。ライフイズテックのプログラミング教育を経験した子供たちが全員プログラマになるわけでもないかもしれない。しかし、若いうちにプログラミングを学び、アプリやゲームを作っていくうちに数学や物理など他の教科、さらには一般教養の必要性を感じる子供が増えてくるかもしれない。

プログラミングのスキルは人生の糧になるだろうし、起業マインドを育む力にもなる。そうした広いすそ野から、まだ高校生なんだけれど、ウェブ会社やゲーム会社で即戦力を発揮できるようなレベルの、スーパーな人材が育ってくればいいですね。それは将来の日本全体を元気にする事にも繋がると信じています」

その理想はライフイズテックの経営者の考えともシンクロしている。
「Life is Tech!の事業をオンラインに拡大することで、地域や環境にとらわれず、日本の子供たち全員がプログラミング教育に触れるチャンスが生まれます。国内だけでなく、日本とシンガポールの子供たちがオンラインで一緒に学びあうというシーンもこれからは当たり前になると思います」と、水野氏も言う。同社はすでにシンガポールに現地法人を設立。当地でのキャンプも展開するなど、グローバル市場を射程にとらえている。

ライフイズテック株式会社 代表取締役 水野雄介氏

水野氏は、Life is Tech!におけるリアル教育とオンライン教育の関係を、ディズニーランドとピクサー・アニメーション・スタジオの関係になぞらえる。

「ディズニーランドがリアルなエンタテインメントの場だとしたら、CG技術を駆使して、それを高品質の映像コンテンツの形で普及させたのがピクサー」というわけだ。

いずれ近いうちに、日本発グローバル展開のエデュティンメント・ビジネス領域で、水野氏と橋本氏の関係が、ウォルト・ディズニーとジョン・ラセター(ピクサー・クリエイティブ担当エグゼクティブ・バイス・プレジデント)の関係のように語られる日が来るかもしれない。

参考リンク


ライフイズテック株式会社
執行役員 CTO 橋本善久氏

1973年愛知県生まれ。東京大学工学部卒業後、株式会社セガでプログラマやゲームディレクターとして家庭用ゲームソフト開発に12年間従事。その後株式会社スクウェア・エニックスのCTO、R&D部門長として5年間、全社技術の推進、開発マネジメントの改善、技術者採用促進と育成等に努める。2014年春より独立し、リブゼント・イノベーションズ株式会社を設立創立。2014年12月より、ライフイズテック株式会社 執行役員CTO(最高技術責任者)として就任。
代表作は「ソニック・ワールドアドベンチャー」(セガ/ゲームディレクター兼技術ディレクター)、「Agni’s Philosophy – FINAL FANTASY Realtime Tech Demo」(スクウェア・エニックス/プロデューサー兼ディレクター)、「FINAL FANTASY XIV 新生エオルゼア」(スクウェア・エニックス/技術ディレクター)など。

(執筆:広重隆樹/撮影:平山諭)

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