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スクラム・オブ・スクラム、Swift・Java8.0シフト、顧客密着etc.─『Airレジ』進化を加速させた開発舞台裏

2015.08.10 Category:インタビュー Tag: , , , , ,

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airregi

タブレットやスマホがPOSレジに変わる。「Airレジ」アプリを開発したリクルートライフスタイルのエンジニアたち。スクラムの大規模組織適用の成功例としても注目される。
顧客密着と技術先取りを両立させながら、チャンレンジを続けている同社の友永隆之氏・佐橘一旗氏に話を聞いた。
by 馬場美由紀 (CodeIQ中の人)

それはただのスクラムではなかった

必要なのはタブレットやスマホだけ、簡単な操作でショップのPOSレジとして使えるアプリ「Airレジ」は、リリースから1年半で16万アカウントを獲得するなど、好調に推移している。

モバイルPOSレジならではの会計処理機能はもちろん、売上や在庫状況も把握でき、Squareをはじめとするクレジットカード決済サービスや、freeeなどの会計ソフトとの連携もシームレス。これだけの機能を持ちながら、初期費用・月額費用とも無料というのは魅力的だ。

▲タブレット・スマホで操作できるシンプルでカンタンな高機能POSレジアプリ「Airレジ

このiOS・Androidアプリをリリースしたのが、近年、サービス力強化のために内製の開発部隊を増強しているリクルートライフスタイル。ネットビジネス本部ディベロップメントデザインユニット・プラットフォーム開発グループのエンジニアたちが、開発の中心にいる。

このグループ(以下、Airレジチーム)からは、Airレジと同様に「Air」を冠するプロダクトが短期間で続々と登場している。リクルートポイントが貯まるアプリ「Airウォレット」、順番管理アプリ「Airウェイト」、予約管理システム「Airリザーブ」、お店に役立つサービス提案サイト「Airマーケット」などだ。

これらのプロダクトを同時並行的かつ迅速・柔軟に開発するためには、文字通り「アジャイル」の開発体制が組まれているのではと想像するのは容易だ。実際、Airレジチームが導入しているのは、スクラムなのだが、これがただのスクラムではない。

実は全員スクラム初心者。教科書を読むことから始めた

「プロダクトや機能ごとに10人程度を1チームとしてスクラムを組み、それを現在では10個ほど連携させながら、全体としては100人規模の体制でスクラム開発を行っています。最近よく耳にする“Scrum of Scrum(スクラム・オブ・スクラム)”型の開発。これに試行錯誤で取り組みました」と語るのは、同チームの認定スクラムマスター・佐橘一旗氏だ。

「初期開発はウォーターフォールで行っていったのですが、どうにもスピード感が出ない。新しいサービスなので、要件が固まるのを待ってからでは遅すぎる。エンジニアがまずは開発を先行的にスタートさせるためにはアジャイルしかない。かつ、相互に連携する複数のサービスを全体の整合性を保ちつつ、かつ並行して立ち上げるには、スクラムを導入するしかないと考えました」

▲株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 ディベロップメントデザインユニット プラットフォーム開発グループ(認定スクラムマスター) 佐橘一旗氏

とはいえ、メンバーの中にはスクラムを知っている、経験しているエンジニアは一人もいなかった。佐橘氏自身「入門書を読むことから始めた」というのだ。教科書を読んでその通りに型をはめることからスタートした。1チームだけに、試験的に導入したスクラムは見かけ上は、うまく行っているようにみえた。

「スクラム初心者なのでみな教科書通りにやるんですが、それがだんだん足かせになってきました。ディレクターの中には、『スクラムでプロダクト運営するにはバックログでJIRA Agileのチケットを作れば、後はうまくいくはず』とその後の作業を開発チームに投げてしまう傾向も見られました。逆に、開発チームもそれだけだとどう開発を進めていいかわからないまま。つまり、手法に囚われすぎて、柔軟な発想が失われてしまうようになったのです」(佐橘氏)

スクラム好きの初心者にはありがちな、“教条主義の陥穽”といえるかもしれない。

自分たちがやりたかったことって何だったっけ?

「それでもだんだん複数のチームにスクラムが導入されていきました。こうなるとチーム間のコミュニケーションは必須。横断で情報を取りまとめる役割を設定したり、スプリントの終わりにはとりあえず各チームの成果物をレビューするようにしたりなど、いろいろ試行錯誤しました」(佐橘氏)

Airレジの開発が始まって半年、2014年秋ぐらいになると、前職でスクラムを実践してきた開発者が何人かチームに投入されるようになった。失敗も成功も含めて経験者から学ぶことは多かった。

「経験者のアドバイスを受けて、私たちが本当にやりたいのは何だったっけ?スクラムを回すことではなく、プロダクトを世に出すことじゃなかったっけ、と原点に回帰することができました。型にはめることではなく、その裏側にある自分たちのマインドセットが重要だと気づいたわけです。それからはインセプションデッキ、ワーキングアグリーメントなど、これまでのスクラム開発で欠けていたパーツを補いながら、属人的にはあった暗黙知を組織知に変えて、共有化するような取り組みが始まりました」

スクラムを大規模連携させるための格闘の様子は、AgileJapan2015で発表された「大規模スクラムの失敗から学んだこと」という佐橘氏らのプレゼン資料で詳細に語られている。

かいつまんで概要を紹介すれば、現在のスクラムチームには、それぞれプログラマやUI/UXエンジニア、デザイナーのほか、アーキテクトやリリーサーが配置され、それを束ねるプロダクト・オーナーがいる。これが10チームあると考えればよい。

一つひとつは別のプロダクトであっても、「Air」プロダクト全体はビジネス上はリクルートライフスタイルの営業・顧客基盤を背景にしており、また認証基盤を共通に持つため、ブランディングやルック&フィールも含めて、整合性とバランスの配慮が必要だ。そのため、プロデューサーやUXスペシャリスト、ポートフォリオ・アーキテクトといった役割の人たちが、個々のチームの外部から全体を統括している。

「POを統括するプロデューサー的な役割は重要ですが、これを単なるプロデューサー→PO間の上意下達関係でとらえると、うまくいかない。できるだけPOに権限移譲する、決定権を持つためにPOのスキルを高める、ということが同時に必要です。またSM(スクラムマスター)間、エンジニア間でのチーム横断的な横串のコミュニケーション機会も深めました。全体の組織における横串と縦串をどのように効果的にマトリクスさせるかは、これからの課題でもあります」(佐橘氏)

手段が目的化しないためには、ユーザーの現場に密着することが不可欠

「どんな開発手法を導入するにしても、手法自体が目的化してしまい、誰のためにプロダクトを開発しているかという本来の目的が見失われてしまうのは、常に起こりうること。これを乗り越えるためには、やはりエンジニアにも現場感覚が必要。Airプロダクトが使われているお客様の現場にエンジニアが積極的に顔を出し、ユーザーの生の声を聞くことが大切だと思います」と言うのは、Airレジチームを率いるグループマネジャー・友永隆之氏だ。

▲株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 ディベロップメントデザインユニット プラットフォーム開発グループ グループマネジャー 友永隆之氏

受託開発型のSIerでも、エンジニアが顧客現場を観察することはあるが、Airレジの場合は事業会社自らが開発するプロダクト。当事者感覚はより強いのだ。

「私はこの前も、鹿児島の飲食店さん何店に営業のスタッフと一緒に伺い、ヒアリングを行いました。レジスターを使う立場に立つ経験は、学生時代のアルバイトでもないとなかなかないもの。素朴に『Airレジの導入がレジの現場を大きく変えている』という実感を得ることができました。現場での改善要求も、エンジニア本人がそこにいればここをこう直せばいいとすぐわかる。逆に私たちのちょっとした改善で、大きなインパクトを生み出すシーンも見ることもできる。これは楽しいですね」と佐橘氏も言う。

エンジニアがプロダクトを開発し、その競争優位性が新たな顧客獲得につながり、ひいては企業の事業構造や収益構造を変えていく。これまで営業主体の会社と見られていたリクルートグループであり、その分社リクルートライフスタイルだが、いまやエンジニア起点のサービス開発にスポットが当たる。大きな変化というべきだろう。

Swift、Java8.0…戦略としての技術転換。新技術への関心に応える

「リクルートグループにはこれまでの事業の中で培った膨大なIT資産があります。ただ、このレガシーは新しい技術を導入したり、技術のパラダイム転換を行う上では“負債”にもなりうる。実は“負債をぶっつぶせ!”というのが私の持論。これまでだったら無視されていたような私の声が、最近は経営トップにも届くようになりました。エンジニアに新しい技術にチャレンジさせることが、事業を発展させたり、技術系の新入社員を獲得するうえでもきわめて重要だという認識に変わりつつあります」と、友永氏は言う。

その一例が、Airレジチームで進められているSwiftへの取り組みだ。

「AppleのWWDC2015で、Swift2.0がオープンソースで公開されることが発表されました。言語自体も徐々に安定期に入ってきているし、中途採用に応募してきたiOSエンジニアと話すと、業務で使うか個人で勉強するかはともかく、Swiftへの関心が非常に高まっています。そういう流れをみると、いまさらObjective-Cに執着する必要もないのかと。それで僕自身の判断もあって、Airレジチームでは開発環境をObjective-CをからSwiftに移行することにしました。これは単に新しいものだからやるのではなく、戦略的な判断です」

こうした転換は、Javaのバージョンについても言える。現在、サーバーサイド開発で一般的に使われているのはJava6.0だが、Airレジチームは早々とJava8.0への移行を進めている。

「これも世界の流れを見ての判断ですね。リクルートはSAStrutsで開発した自社フレームワークが多いんですが、転職者にこれを学んでもらうコストより、Java8.0でグローバルにメンテナンスされているフレームワーク(Springを採用)を使っている人を採用したほうが育成コストも安くつく。転職者の採用を一つのきっかけに、社内の開発環境を変えていくことに、私は全然躊躇しないですね」

先進技術への取り組みと顧客密着が共存

すでにGitHubはバージョン管理に必須のツールとして当たり前に開発環境に組み込まれている。また、Airプロダクトが数多くリリースされるにつれて、プログラムテストに関わる工程も増えてきた。そのためのQAエンジニアも増えている。QAエンジニアが作るテストケース開発を自動化し、かつこれを社内資産化するために、いまQA部門におけるテスト駆動開発(TDD)の導入が検討されている。

「テストコードを自ら書かないエンジニアはまだまだ多い。しかし、テストに耐えうるコードを書くというエンジニア文化は大切。テストコードを書くのが当たり前だし、そのほうが便利だということを習慣づけていきたい。QA部門へのTDDの導入はその先駆けになると思います」(友永氏)

こうしたテクノロジー先取りと、アジャイル開発手法への熱心な取り組みがある一方で、全国の店舗を訪ねて熱心に店長や現場スタッフの話を聞く泥臭さも、Airレジチームにはある。

「リクルートライフスタイル全体に言えることですが、基本的にエンジニアも新規サービス開発やサービス改善のアイデアを出し、自ら実装する“エンジニアドリブン”な組織。サービス開発にエンジニアに関与できる幅が広いのは特徴であると同時に、仕事のやりがいにもつながっています」

友永・佐橘氏の見解はここでも一致する。社名どおり人々のライフスタイルをよりリッチに変えていくため、日々奮闘するリクルートライフスタイルのエンジニアたち。彼らが生み出すサービスへの期待は高まる一方だ。

(執筆:広重隆樹 撮影:平山諭)

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