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福岡から世界に通じるIoTビジネスを──スカイディスクCTO大谷祐司のキャリアはこうして作られた

2017.02.10 Category:インタビュー Tag: , , ,

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福岡市に本拠を置くIoTのスタートアップ「スカイディスク」。そのCTOに就任したのが、元インテリジェンス技術責任者の大谷祐司氏だ。都内の複数の企業で、技術とビジネスを融合させてきた経験が、これからは九州で花開く。
IoTで世界制覇するという夢に、大谷氏自身がコミットしていくまでを語ってもらった。
by 馬場美由紀 (CodeIQ中の人)

福岡は「スタートアップ都市」。テクノロジーベンチャーがいま熱い

2013年に創業されたスカイディスクは、福岡発のIoTスタートアップだ。

IoT向けの脱着式センサ「SkyLogger」とAIクラウドサービス「SkyAnalyzer」、さらに人工知能基盤「SkyAI」を組み合わせ、流通や農業、工場のセンシング、分析予測など幅広い分野へのサービスを提供する。

2016年11月には、低消費電力で広範囲な通信ができ、IoTに適しているといわれる「LoRaWAN」に注目し、実証実験も開始した。日本企業のなかでもいち早い取り組みとして注目を集めている。

そのスカイディスクに今年(2017年)1月にCTOとして転職したのは、昨年まで人材サービスのインテリジェンスで技術責任者を務めていた大谷祐司氏だ。

「これまでの複数の企業での経験を踏まえ、一人のエンジニアとして、さらに技術組織のマネージャーとしてもっと大きな飛躍をしたい、地方発のIoTビジネスをグローバルに展開するという新しいミッションにチャレンジをしたい、という二つの思いがありました」と、転職の理由を語る。

いずれは生まれ故郷の山口県下関市に戻りたかったということもあり、下関から車で1時間足らずの福岡市の企業を探していた。

福岡市がさまざまなテクノロジーを活かした新しいビジネスのホットスポットとして注目されていることを知っていたからだ。

福岡市は2004年に安倍政権の国家戦略特区構想で「グローバル創業・雇用創出特区」に選ばれている。ドローンで買い物を代行したり、大学構内で自動運転バスを走らせる実験も始まった。

市長自らが先頭に立って2012年には「スタートアップ都市」を宣言、外国人の創業活動を特例的に認める「スタートアップビザ」や、革新的なビジネスにチャレンジする創業者たちを応援する「スタートアップ法人減税」などユニークな制度も生まれている。

2016年秋には、福岡市・九州組み込みソフトウェアコンソーシアム(QUEST)と九州先端科学技術研究所(ISIT)が核となり、福岡市域でIoTに興味を持つ企業、組織、個人、大学が集まる場「福岡市IoTコンソーシアム(FITCO)」もスタートした。

大谷氏が転職したスカイディスクもFITCOのメンバー企業の一つだ。

「エンジニアのコミュニティ活動も活発で、Web系エンジニアのハッカソンや勉強会が盛んに開かれています。年に一度はテクノロジーとクリエイティブの祭典と銘打った“明星和楽”というイベントも開催され、私も昨年11月のイベントではCTOナイトというセッションにパネラーの一人として参加しました」

ちなみに「明星和楽」は、福岡で生まれ、いまは海外にもプロジェクト管理ツールの事業を展開している、ヌーラボのCEO橋本正徳氏が仕掛け人。福岡にはこの他にもRPG「妖怪ウォッチ」シリーズで知られるレベルファイブなどいくつかの優秀企業が生まれている。

ITやIoT、さらにゲームソフトまで、スタートアップやベンチャー企業がひしめく福岡市。その熱いビジネスの躍動がこの地に惹かれた理由だが、「さらに」と大谷氏はつけくわえる。

「人口146万の大都市のわりには街がコンパクト。他企業を訪問するのもほとんどが徒歩、自転車圏内。街でもしょっちゅう知り合いに出会います。東京などで技術を身につけ、福岡で挑戦する私のようなU・Iターン組も多い。

それになにより、食べ物が美味くて、海が近く、公園がたくさんある。0歳と2歳児の親としては子供を育てるには最適な環境なんです」

ちなみに、大谷氏が借りた3LDKのマンションは、繁華街・天神から電車で10分なのに、家賃が10万円以下。東京の半分以下と、住みやすさも抜群だ。

サイバーエージェント子会社で初のCTOを経験

大谷氏は大学時代はバンド活動をしており、本気でプロを目指したこともある。音楽に見切りをつけて深く考えずに就職したのが、中小SIer。

それまでプログラミング経験は全くなかった。それでも技術を覚えるとどんどんプログラムが書け、人より早く仕事を終えることができるようになった。

「でも、“会社は人月単位で請求するのだから、もっとゆっくりやっていいよ”と言われ、その構造に疑問をもつようになりました」

一度は大きな企業の事業構造を学んでおきたいと、2007年にリクルートエージェントに転職。必要に応じてプログラミングすることはあったが、もっぱら新規事業の企画開発が仕事になった。

SIer時代から自宅で勝手に開発していた、ネット広告関連のWebツールが、当時、技術力を強化しようとしていたサイバーエージェントの広告部門の目に留まった。

「リスティング広告とアドネットワークの広告にクロールをかけてどんな企業がどんな広告を出しているかを見える化するツールですね。それをサイバーエージェントが使いたいといってくれたので売りました。それからしばらくして、広告部門の技術力を強化したいのでウチに来ないかと。2008年に転職しました」

サイバーエージェントでは、ほとんど一人でネット広告運用のプラットフォームを開発し、そこにぶらさがる40個ほどのサブシステムも作り続けた。

最終的にはシーエー・アドバンスという開発系の子会社にチームごと移籍。大谷氏は東京、沖縄あわせて20人ぐらいのエンジニアをまとめる立場になった。

シーエー・アドバンスで初めてCTO的な役割を担うようになったのだが、そこで得た教訓は今でも大谷氏の思想のコアにある。

「それまではできない若手を成長させるより、できるエンジニアを連れてきたほうが事業は伸びる、と思い込んでいたんです。しかし、その考えが180度転換しました。成長し続ける組織があってこそ、本当に強いチームができる。

人の成長を考えたマネジメントが絶対に必要だ。人材採用にあたっても、すぐに仕事をこなせる人というよりは、これから一緒に会社の組織や文化を作っていける人を重視するようになりました」

マネジメントについては、当時、同社の社長を務めていた菊池満長氏から多くのことを学んだという。

エンジニアにとって「発信することは正義だ」という確信

インテリジェンスへの転職は2013年のこと。以前、リクルートエージェントで新規事業創出に関わった経験だけでなく、シーエー・アドバンスでほぼゼロ状態からエンジニア組織を作り上げた実績も買われての転職だ。

その頃、インテリジェンスもたんなる人材ビジネスの事業会社ではなく、自社技術を持つテクノロジー企業として社会にアピールをしたがっていた。

インテリジェンスでも新規事業に関わることが多かった。たった一人で半年間に4つの新規サービスをリリースしたこともある。

職務経歴や経験・スキル情報から自分の市場価値を診断し、求人とマッチングさせる「MIIDAS(ミーダス)」というサービスでは、社内に経験者が誰もいないのに、あえてGo言語を採用して開発をスタートさせる、という大胆な決断も行った。

「私自身が得意なのはPHPでしたが、PHPはバッチ処理をするときにパフォーマンスが悪くメモリもバカ食いします。せっかく新規にやるんだったら、PHP以外の言語を採用しようと決め、いろいろと調べました。

PHPの並列処理はGoだったらもっと簡単に書ける。言語的にも優れているという確信があっての選択でした」

結果的に、Go言語によるサービス開発はまだ珍しかったこともあり、新しい技術にチャレンジする企業というイメージが生まれ、優秀なエンジニアの獲得にもつながったという。

「新規な技術への挑戦ということ以上に、適材適所で技術を使い分けることができるエンジニアを育てたかったんです。私の経験則から言えば、2言語できる人は5つも6つもできるようになります。

これしかできないではなく、いろんなことができる人間を育てたかった。特に少人数の組織では、1人ができる範囲を広げるほうが、レバレッジが効きますしね」

インテリジェンスを退職する直前にはエンジニア集団は60人にまで増えていた。そのマネジメントで最も大切にしていたことは、「発信することは正義だ」というメッセージだ。

「技術の世界ではたえず失敗があります。この失敗を知られないように隠していたら、また誰かがそれを繰り返す。これでは組織としての成長が生まれません。組織が強くなるためには、失敗を共有化することが不可欠。失敗であれ成功であれ、自分の技術について他のメンバーにきちんと発信する風土を作ることを心がけました」

発信はなにも社内に限ったことではない。当時のインテリジェンスは、テクノロジーカンパニーというイメージはまだ定着していなかった。そこでサービスをリリースするときも、技術的観点からのメリットをユーザーに伝えるようにした。

編集者のオファーに応えて雑誌「ソフトウェアデザイン」のNoSQL特集号(2016年12月号)に、高速なインメモリデータベース「Redis」についての解説記事を書いたのも、技術情報を発信するというモットーを自ら実践した結果だ。

シーエー・アドバンスでは最大20人規模、インテリジェンスでは60人規模のエンジニア組織をマネジメントした。

「少人数のときは、CTO自らが高度な技術力を発揮してみせる現場力が必要です。しかし、50人規模になったら、できる人をどうアサインして、プロジェクトを回していくかが重要になります。これが500人規模になるとどう変わるか、それはまだ自分では分からないのですが、いつかはチャレンジしてみたいですね」

技術をコモディティ化させないために、終わることのないチャレンジを

さて、いくたびかの転職の果てに、福岡のIoTスタートアップに飛び込んだ大谷氏。これからのIoTビジネスをど考え、組織をどのように強くしたいと考えているのだろうか。

「IoT市場はまだ立ちあがったばかりで、1社だけでできることは限られています。IoTという新しい市場を創出し、日本のIoT技術で世界に通じるサービスを生み出すのが夢ですが、そのためにはオープン・イノベーションが大切です」

幸いにもそうした水平連携を可能にする風土が、冒頭に述べたように、福岡でも生まれつつある。

これまで10年以上にわたってIT/Web業界を見てきた大谷氏は、最近ある種の危機感を抱くようになった。

「ITの世界では技術のコモディティ化がどんどん進んでいます。Webテクノロジーも先進的なものはたえず生まれるとは思いますが、その一方で技術の陳腐化のスピードも速い。

コモディティ化を避けるためには、僕らの世代がもっと技術レベルを上げ、そして技術の幅を広げないといけない。私がIoTに一歩踏み込んだのもそれが理由です。

IoTで成功するためには、ハード、ソフト、AI、通信といったマルチな技術分野を押さえておくことはもちろん、私たちの技術が顧客の価値をどう向上させるかというビジネスの意識をもっと研ぎ澄まさないといけない。それをスカイディスクでやりたいと思うのです」

大谷氏も言うように、IoTに関心を持つ企業は多いが、それがビジネスとして成功するという確信を持てる企業となると、まだ数えるほどだという。

「IoTを始める顧客企業と話をしていても、そこに割く予算はせいぜい数十万、数百万円規模。これが数千万、数億円を超えないとほんとうの市場とはいえません」

逆にいえば地方在住の中小企業にもチャンスはあるということだ。IoTの要素技術にはまだデファクトスタンダードと呼べるものがない。リーディングカンパニーもまだいない。

これからのIoT産業をリードするのは、新技術をデファクトにまで高める努力と、確固としたサービスモデルを生み出した企業だけだ。

福岡から世界標準のIoTビジネスを生み出す。スカイディスクの野望を、CTOとして担う大谷氏の責任は、ますます重大になっていく。

株式会社スカイディスク 最高技術責任者 CTO 大谷 祐司氏
大学を卒業後、SEとして働きはじめ2007年に株式会社リクルートエージェントに入社。事業企画を経験した後、2008年から2013年まで株式会社サイバーエージェントでインターネット広告のシステム部署立ち上げ、子会社の技術責任者に就任。その後、株式会社インテリジェンスに移り、マーケティングソリューションから新規Webサービス(MIIDAS)の開発まで幅広く担当した。2017年1月に、株式会社スカイディスクのCTOに就任。

(執筆:広重隆樹 撮影:刑部友康)

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