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グリーCTO藤本真樹氏とクックパッド庄司嘉織氏が明かす、エンジニアが人事部長になってやったこと

2017.03.10 Category:勉強会・イベント Tag: ,

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採用・育成・評価・配置などの人事関連では、「HRTech」という言葉に注目が集まっている。「エンジニアのキャリアパスとしての人事責任者 人事 to IT カイギ #01」のテーマは「エンジニアのキャリアパスとしての人事」。
実際に人事責任者としても活躍するグリーCTO藤本真樹氏、クックパッドの庄司嘉織氏が登壇し、同テーマについて語った。
by 馬場美由紀 (CodeIQ中の人)

すべての人事部門のリーダーはテクノロジーリーダー!?

2月17日、東京・渋谷のイベント&コミュニティスペースdotsで、人事・採用コンサルティング会社のワミィ主催による、第1回「人事 to IT カイギ」が開催された。

最初に同コミュニティを立ち上げたワミィ代表取締役の伊藤和歌子氏の挨拶が行われた。伊藤さんは同コミュニティを立ち上げたきっかけを「私自身の原体験とある記事を読んだこと」だと語る。

伊藤氏は元ニフティのシステムエンジニア。その後、セキュリティソフト会社に転職し、人事部長を務めたという。そして昨年10月に現在の会社を設立したのだが、「今の時代はエンジニアリングに関する理解が管理部門の人も必要だと常々思っていた」と説明する。

そんなとき、毎年米国で開催されているHR Technology Conferenceの記事を読んだのである。そこには、「現代ではすべての会社がIT企業であるように、すべての人事部門のリーダーはテクノロジーリーダーである」と書かれていた。

そして日本も見渡すと、「グリーの藤本さんやクックパッドの庄司さん、ドワンゴの清水さんなど一流のエンジニアが人事の責任者を務めている現状があった」と伊藤さんは語る。

ワミィ株式会社 代表取締役 伊藤和歌子氏

同コミュニティのコンセプトは、バックオフィスの人たちのIT活用を考える場として、一方的な講演やセミナーではなく双方向のコミュニケーションが取れる活動にしていきたいという。

従って、本イベントは講演とパネルディスカッションに交流タイムが設けられていた。「エンジニアのキャリアパスとしての人事」というテーマであったことから、参加者の多くはエンジニアだった。

グリー藤本氏が語る「エンジニアのキャリアパスとしての人事責任者」

最初に登壇したのはグリーCTOの藤本真樹氏。講演テーマは本イベントと同じ「エンジニアのキャリアパスとしての人事責任者」。

_42a9464グリー株式会社 取締役 執行役員常務 最高技術責任者 藤本 真樹 (@masaki_fujimoto)氏

藤本氏の講演概要は以下の通り。

昨年末に発売された「WEB+DB PRESS 16周年記念号 Vol96」では、16周年記念特別エッセイ「私のキャリアチェンジ その道を選ぶまでに考えたこと」と題し、なぜ人事をやることになった経緯を書いた。

それを要約すると、

  • 今日、ソフトウェアを利用しない、ソフトウェアに関わらない仕事などほとんどない(そしてそれは増える一方である)。
  • なのでソフトウェアエンジニアリング観点でのアプローチが許されるのであれば、なんでも多分楽しい(はず)
  • 人事もしかり

つまり、ソフトウェアが関わる仕事であれば、なんでも面白いと思えるということ。

しかし、こう思えるのは38歳という年齢が大きく影響しているからだと考えている。もう人生半分くらい過ぎたし、残りの半分で何ができるかを真剣にと言うか切実に考えるお年頃になった。

手段よりも、どんな問題をどれだけ解決できるが大事だという気持ちになっているというのが正直なところ。つまり10年前ならこうは考えなかったかもしれないということだ。

そもそも論として、担当が固定され続けるのはよくないし、面白くもないと考えていた。ローテーションされて違う視点で業務、組織が見直されること自体には意味があると思っている。それによってなんとなくやっていたことが見直されたりもするし、刺激もあったりするからだ。

基本的に楽をするために全力を尽くすほうだし、その観点からエンジニアとしてのサポートを強めることで、人事の仕事がもっと効率化できる。

人事に限らないかもしれないが、人事担当者が人事の仕事そのものをしている時間はそんなに多くない(かもしれない)。集計をしていたり、社員データベースを整備したりということに時間を費やしている。

そういった人事の本来の業務ではない部分をエンジニアがサポートを強めることで、機械化できるのではと考えた。

これはミクロな視点かもしれないが、エンジニアリングの観点から人事を見直すのは面白そうだし、会社にとってプラスになることは少なからずあると思ったからだ。

例えばFacebookのリクルーティングサイトでHRの募集方向を見ると、人事と行ってもいろいろなジョブがある。

そのうち、エンジニアリングの知識が求められるモノは6職種。つまり今や「エンジニアリングのサポートなしにHRをやる時代ではない」とも言える。

実際のところで人事も見るようになりやったことは、何のために人事があるか、という人事のミッションの再確認と一貫性や透明性が大事というメッセージングだ。

いきなりドラスティックに変えたりということはやっていない。それは労働基準法をはじめとする法律など、人事の専門知識がまだ習得できていないから。しかも人事は手戻りコストが高いので、少しずつ変更している。

今後、やりたいことは、人事機能のサービス化。Webサービス+bot(欲を言えばアプリ)に既存業務を集約してきたいと考えているが、まずはデータ集約から始めている。

サービス化するには難しいことも多々ある。その一つが、アクセス権だ。人事データは個人情報なので、なかなかオープンにはできない。データを触る人を増やせないので悩んでいる。

ただ、エンジニアリングという観点でHRを見るのは楽しいので、もしそういうチャンスが来たら、トライしない理由はないと思う。

クックパッド 技術部長兼人事部長 庄司氏が語る「人事部長になったわけ」

続いてクックパッドの庄司嘉織氏が登壇した。庄司氏は同社で技術部長と人事部長を兼務している。講演内容は次の通り。

クックパッド株式会社 技術部長 兼 人事部長 庄司 嘉織 (@yoshiori)氏

クックパッドは258万のレシピが載っている料理レシピサービス。現在のUBは6000万人超で、有料ユーザーも185万人を超えている。クックパッドは国内だけではなく、世界17の言語で60の国で展開しており、国外でもナンバーワンの料理レシピサービスである。

最初に人事部長への打診が来たときは断った。その理由は単純で、人事の人たちが、人事のことがわからない人間が上に立つのは嫌がると思ってたからだ。

もちろん開発がしたいという思いもあった。しかし何度も打診されて、結局やることにした。日刊イトイ新聞で任天堂の岩田社長の記事を読み、感銘を受けたからだ。それが次の一節だ。

「誰かのお役に立ったり、誰かが喜んでくれたり、お客さんがうれしいと思ったり。それはなんでもいいんですが、当事者になれるチャンスがあるのにそれを見過ごして『手を出せば状況がよくできるし、何かを足してあげられるけど、大変になるからやめておこう』と当事者にならないままでいるのを私は嫌いというか、そうしないで生きてきたんです」

これを読み、かっこいいなと思った。状況が似ていると思った。会社にまったく不満がないわけではない。それを変えられる当事者になれるチャンスが目の前にある。だから当事者になる決意をした。

そしてもう一つ、エンジニアが人事になることで魅力に感じたことが、HRTechである。米国では1998年頃からHR Technology Conferenceが開催されており、さまざまな事例が登場している。

中でもかっこいいと思ったのはIBM Kenexa。これは社員のエンゲージメントの強化のためのツールで、あのIBMの人工知能Watsonが使われている。このツールを導入後、エンゲージメントは56%から72%に、売り上げも18%上昇したという実績も出している。

2016年6月に人事部長を兼務することになり、実際に取り組んだのは次の6点。

  • コアタイム廃止
  • リモートワーク(トライアル)
  • 海外チームとの連携
  • 新卒通年採用
  • 面接官拡充
  • Rubyコミッター採用

以前はコアタイムを設け、エンジニアとデザイナー職のみ裁量労働制を採用していた。そして今回はそれをフルフレックスに。つまりエンジニアだけとか、職種限定の制度を作りたくなかった。

このようなことをすんなり実現できたのは、その恩恵を受けていた立場の人間が発言したからだ。そして思ったのは、エンジニアがいないところで決めるとエンジニアに遠慮しすぎるという点だ。

人事はとかく、エンジニアは嫌がるのではと気にすることも多い。へんにエンジニアを神聖視しないことも大事である。

エンジニアの採用フローも変えた。例えば2018年度の新卒採用は、構造と実際の自分のポートフォリオを書いたYAMLを用意し、その2つからHTMLを吐き出すプログラムを作り、Gistで提出してもらうというシステムにした。

Gistを見るだけで、コードも見られるし、GitHubでの活動も書類審査の段階で確認できる。こういう仕組みはエンジニアが人事部にいないと思いつかない。

もちろん、できなかったこともある。それが勤怠システムなど基幹システム入れ替えである。だが、基幹システムの入れ替えには時間がかかる。

シングル・サインオンに対応しているモノ、APIのあるモノをというエンジニアだから言える視点で検討している。

人事部長に就任してわかったことは、とにかく人事は大変で、ミスは絶対許されない仕事だということ。システムの世界でいうと、インフラに近い感覚だ。従って、DevOpsやInfrastructure as Code的なものと思想的な部分は結構参考になるのでは、と最近思い始めている。

ドワンゴではエンジニアが人事に入るのは珍しいことではない

続いて、ドワンゴの清水さんの講演が行われるはずだったが、出産というビッグイベントと重なり、急遽、欠席となった。プレゼンテーション資料が届いてこともあり、庄司氏が代理で講演を行った。

清水氏はドワンゴの人事部長。ドワンゴに転職する以前はSIerで働いていたという。Java-jaというコミュニティで当時ドワンゴにいた溝口浩二氏と会い、ドワンゴに転職した。

エンジニアとして社内システムの開発、ニコニコ動画モバイルの開発リーダー、Windows Store Appの立ち上げ&開発リーダーに従事。エンジニアの生産性を高める環境作りを行う部署、技術コミュニケーション室の立ち上げも行った。またNode.JS日本ユーザーグループの立ち上げを行い、代表も務めている。

人事部長になった経緯は、人事が抱えていた問題を解決しようと考えたから。人事は会社の心臓部であり、ドワンゴの川上会長からも依頼されたことから引き受けることに。そこにはやはり「なんだかんだいってドワンゴが好き」という愛社精神と少しばかりの打算があったという。

人事部長になってから行ったことは、

  • 適正テストとタレントネジメント
  • プロジェクトマネジメント、タスク管理
  • コミュニケーション

エンジニアの生産性を上げること、採用活動、ドワンゴのイメージアップにつながるような施策に取り組んだ。

ドワンゴではエンジニアが人事部に入ると画期的だということはなく、昔からだという。エンジニアの力を人事に向けることで、会社全体が良くなるということにコミットメントしている。

藤本氏、庄司氏によるパネルディスカッション

第二部のパネルディスカッション。パネラーは講演を行った藤本氏と庄司氏が登壇した。

── まずはHRにテクノロジーがもたらす変化について。人事の仕事は採用育成、研修、育成。評価、労務などたくさんある。例えば採用のシステム化はどのくらい行われているのでしょうか。

藤本:思っているようなすごい話は出てこないですね。サービスを使ったりはしていますが。

庄司:IT化できることはやっているが、例えばビッグデータ・ディープラーニングによる選考の精度向上などについては、まだ手を付けていないですね。

── 例えば応募に対して、その返信メールを一人ひとり手で書いているわけではないですよね。

藤本:そういう意味ではシステムはありますが、全自動というわけではないです。

庄司:うちではそこはもちろん、面接官が評価した内容も蓄積できる仕組みを作っています。

── ビッグデータ・ディープラーニングによる選考といっても、コンピュータが出した答え(候補者)を補等に信用できるかという問題もあります。

藤本:非決定的な問題に対して計算機を使おうというのは確実に広がっていくと思うし、人間もそれに慣れていく。

つまりより早く会社として上手に使い慣れていかなければならないのではと思っています。これはいける、これはまだコンピュータでは無理だよねというのが会社として上手くできるようになるのが今後数年の話だと思います。

庄司:ディープラーニングによる候補者を選ぶということはなくても、明らかにこの人はダメという人を弾くようなことは現実的にできると考えている。

またうちのグローバルチームは「Workable」という採用管理ソフトウェアを使っているが、Chromeの拡張機能を出しており、例えばFacebookでその人のページを開いて使うと「この人の他のWebサービスのアカウントはこれです」ということ教えてくれくるんです。そういうネットウォッチ的な人事が手作業でやっていることが自動化されています。

── ただ日本企業に合わないのは、Qiitaやはてななど日本人エンジニアがよく使っているサービスの情報は出てこないのが惜しいですよね。この人がいいという決定は、どうやってしているのですか。

庄司:出てきた情報を人事チームで一緒に見て、決めています。

── そのようなツールを導入したのは、庄司さんが部長になったことがきっかけですか。

庄司:調べてみたいと言われ、調べてもらったという感じです。ただ、一次選定をエンジニアができるのはいいですよね。

藤本:ツールやサービスを単独で導入するのは簡単ですが、ただ基幹システムと連携するとなると難しいですね。

庄司:タレントマネジメントシステムの導入は障壁が高いですね。人事マスターをどう持つか。LDAPや経理システムとも連携が必要になる。どう連携するのと考え出すと、基幹システムの入れ替えは大変なので、なかなか決意できません。

── エンジニアによるサービスの見極めは重要です。エンジニアが人事部長をやることで、そこに目がいくようになるし、リモートワークの整備についても、エンジニア視点が活かされるのではと思うのですが。

庄司:当社は世界中に支店があるので。場所や時間にこだわっていたら業務にならないという点からリモートワークを整備しています。ただ、トライアルとしているのは、ミーティングが本当にストレスなくできるかどうかをテストしているんです。

── リモートワークは道具が重要ですからね。マイクの性能一つでも快適さが大きく変わりますからね。

藤本:エンジニアリングで解決したいと思っても、しがらみも多くてなかなか変えられないというのも現実です。

── 例えばエンジニアの世界ではUXとUIという言葉があるが、それを人事の世界に当てはめると次のようになると思われます。下はSaaSなどでそれを実現するものが登場してきています。

  • UX:エンゲージメント、離職率をAIでなど
  • UI:効率化、自動化、プロジェクト管理

藤本:ただ、下ができていないと上もできないんですよね。

── 人事マスターとか作っていないのにエンゲージメントシステムを入れられないということですね。つまり最初は下から取り組まないといけないと。

藤本:そのような派手ではないことでもできることはたくさんあると思うんです。ソフトウェアの応用範囲が広がったというのは、裏を返せばエンジニアだけでは完結しない仕事が増えているとも言えます。

── エンジニアがという主語を使うと、境界を引くことになりやすい。エンジニアが人事部長になったときに、エンジニアがという冠がついて回るのはもう違うのかも知れません。

庄司:だから僕もエンジニアに限るという制度は作らないようにしています。クックパッドのサービスはエンジニア向けではないけど、エンジニアでないと作れない。人事制度もそう。エンジニアだけが使うモノではないけど、エンジニアだって作れる。

── 皆さんが実績を作っていくしかないと思います(笑)。

庄司:創業者に言われたのは、「エンジニアから人事部長というキャリアパスがないのであれば、お前が作るんだ」と。兼任しているといろいろ矛盾することも出てくると思う。その悩みも含めて発信していくのがいいのかなと思っています。

藤本:何かしら形を作ろうとしたら3年はかかると思います。まだまだ知らないことが多いので。人事は手戻りコストが大きいので、大きな変更はなかなかできない。これから3年間、着実にちょっとずつ変えないと、目的にはたどり着けないと思っています。

── 3年間何もしないことと、どう違いが出ると思いますか。

藤本:3年では意外に見た目上、すごく差が付くことはないと思います。ただ。それは今後に積み上がっていくモノ。つまりその先どうやって進んでいくかという礎になると確信しています。ぼくらがこうした方がよいという新しいアプローチに対して、社員のみなさんがどう認識し、対応していくか。そういう文化の醸成をするという部分が大きいと思います。

庄司:エンジニアは売り手市場なので、今、エンジニアを採用できる人事は非常に重宝されます。ゴールドラッシュの際のツルハシを売る人になれるということ。人事のスキルを持っておくのは市場価値としても良い選択だと思います

── エンジニアのキャリアとしての人事へのエール、ありがとうございました。

エンジニアが人事になるというキャリアは、HRTechが進むこれからは、当たり前になるかもしれない。エンジニアのスキルを活かしてやれることがたくさんある。

もしそういう打診が来たら、迷わずに飛び込んでみてもいいのでは。ぜひ、チャレンジしてほしい。

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