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食品をプリントする!?オランダTNOのフード3Dプリントへの取り組み

2017.03.15 Category:勉強会・イベント Tag:

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紙に印刷するように、3Dモデルから立体物を造形する「3Dプリント」。ここ数年で一気に普及した技術だが、プロトタイピングや外装以外に、食料・食品の開発に活用しようという動きが活発になってきている。ここでは、オランダTNOが進める3Dプリントの技術開発、フード3Dプリントの現状について紹介する。 by 大内 孝子

TNOっては?

フード3Dプリントに早くから取り組んでいる機関として、オランダの「TNO: the Netherlands Organization for Applied Scientific Research」がある。

TNOは3Dプリント技術の研究開発や産業ベースでの展開を行っている研究機関だ。そのTNOのErwin Meinders氏がファブ地球社会コンソーシアムの勉強会に登場した。

左:慶應義塾大学SFCの田中浩也教授、右:TNOのErwin Meinders氏

まず、「ファブ地球社会コンソーシアム」についてだが、これは慶應義塾大学SFCの田中浩也教授が中心になって進めている。デジタルなものづくりやテクノロジーをビジネスにしていこうとするときに生じる課題、人材や品質評価、安全の保証などをオープンに議論する場として運営されている。

その活動の一環で、民間の参加企業を対象に月一程度で勉強会を行っているのだが、今回は参加企業に限定しない形で、Erwin氏を招いて「フード3Dプリンタの最前線」としたセミナーがケイズデザインラボのカンファレンスルームで開かれた。

TNOは産業技術・ライフサイエンスなどの分野における応用開発を行うことを目的に、オランダ議会により1932年に設立された、欧州では最大級の総合研究機関。Erwin Meinders氏はそこで3Dプリント関連の研究部門、およびTNOとアイントホーフェン工科大学の共同研究プラットフォーム「AMSYSTEMS Center」のマネジメントを務める人物。

通訳を務めるのは、TNOの日本の食と健康部門の代表である西出香氏や田中浩也氏。また当日は、ケイズデザインラボ代表の原雄司氏も来ており、ときにそのまま議論となる場もあり、全体的に非常にオープンな雰囲気で行われた。

ここではTNOおよびAMSYSTEMS Centerが進める先進的な3Dプリント生産ラインのプロトタイプ「Printvalley」、そしてフード3Dプリントへの取り組みについて取り上げる。

2p21551453Dプリントのサンプル(クッキー、電子回路入りランプシェード、基板、入れ歯用の土台)

スモールファクトリーを実現する「Printvalley」

前述のように、TNO、そしてAMSYSTEMS Centerの機関としての目標は、サイエンスやテクノロジーを産業で活用するための研究開発。最終的には「作ること」に落とし込む、関連する技術を基礎研究として進めるだけではなく、企業と組んでそれを産業に応用することを両輪としている。

Erwin氏は、今後の3Dプリント技術の展開として、2つのアプローチがあるとする。こういうものが最終的に作れるとプロトタイプを示す、いわゆるパイロットライン。もう1つが、3Dプリントの品質を高め、小ロット生産を可能とするスモールファクトリーと呼ばれる方向性だ。

3Dプリント技術の今後の方向性として、パイロットライン、スモールファクトリーの2つがある(プレゼン資料より引用)

ここでErwin氏が1つの成果として示すのは「Printvalley」だ。PrintvalleyはHyprolineプロジェクト(EUの第7次研究開発プログラム(FP7)の助成を受け、さまざまな企業が参加した)で進められたもので、3Dプリント、レーザーベースの表面実装および構造化、プロセス監視・計測のためのシステムを組み合わせた高速生産ラインの実用プロトタイプだ。

Printvalleyのデモ(動画)

Printvalleyは、個別の100個のビルドプラットフォームを持ち、2.0m/sで回転する円形のベルトコンベアシステム(Ewin氏曰く「すしプリンター」)だ。

各プラットフォームで、個別のカスタム金属部品を同時に製造することができる。3Dプリントだけでなく、3Dモデルどおりプリントされたか検査するために3Dスキャニングを行い、正確に印刷されていなければレーザで表面欠陥を修正したり、取り除く。完成部品を生産ラインからピックアップするピックアンドプレースシステムまで備える。すべてのモジュールが統合された状態で正しく機能するよう高度な制御が必要なシステムだ。

こうしたシステムがあれば、100から1000という少量で電子回路入りのパーツを作りたいというとき、スピーディに簡単に作ることができるだろう。少量生産のためのスマートなファクトリーとして機能する。

「AMSYSTEMS Centerは多方面からメンバーが集まり、大きなプロジェクトとして運営している。学術的な研究だけでなく、マーケットの開拓、ものを市場に持っていくというところで最初から最後まで携わっている」とErwin Meinders氏

また、外装だけではなくで中にバッテリーやセンサーなど電子回路を埋め込むことができるというのもミソ。

電子回路を埋め込んだ3Dプリント、ランプシェードとランプだ

金属のやわらかいインクを流し込んでいくことで、外装のプリントと同時に電子回路そのものを埋め込む。なぜ、こうしたことが必要なのかというと、それによりさまざまな部品の加工、造形プロセスを統合することができるからだ。

上の写真で示したものはランプシェードとランプが一体になったもの。このように1つのモノの中に、いろいろ機能やユーザインタフェースが統合されている。

これは、Printvalleyのような統合プロセスを実現する技術でもあるし、電子機器や通信機器、さらに医療分野に大きく活用できる技術だ。身体に取り付けるようなもの、たとえば義足や義手は、身体の状態をセンシングすると同時に快適にアタッチできることが必須となる。形状記憶フィラメントと組み合わせて実用化されれば、大きな進化が期待できる。

なぜ、フード3Dプリントなのか?

まだ食材のプリントという概念がほとんどどなかった2010年に、すでに他の素材向けに開発していた3Dプリンタを使って遊び半分で食べれるモノを造形してみようと始めたのが、TNOがフード3Dプリントに取り組むことになったキッカケ。その後、イタリアのパスタメーカー「Barilla(バリラ)」とパスタの3Dプリンタを共同開発し、現在では世界各国で注目を浴びている。

Barillaと共同開発した3Dパスタプリンタは2015年のミラノEXPOにて展示&デモを行っている(動画)

現在、ニューヨークのレストランに導入され、その人の好みの形でパスタをプリントできるというメニューで提供されている。

Barillaがフード3Dプリントに興味を持ったのは、個々人の嗜好にカスタマイズしたものが作れるという3Dプリンタの特性を転用すれば、付加価値として「新しい食の体験」を作り出すことができると考えたからだ。

アプリでパラメータを変更することで、いろいろな形に変えることができるようになっている(プレゼン資料より引用)

積層(FDM)方式の造形で、2分間に1食分のパスタが出力できるスピードだ。量産性については、今後もいろいろ試していくという。

こうした高級レストランのサービス(最終的にはシェフが提供するメニュー)としての活用がビジネスモデルとして一番わかりやすいが、フード3Dプリントにはさらに代替フードの可能性、利便性が可能性、利便性が期待されている。

なお、プリンタに複数のノズルを持たせることでいくつかの素材を混ぜて出力できる。異なる素材を異なる層に、あるいは格子状に組んだり、ミックスして出力する。たとえば、クッキーであれば粉末の中に自分の好きなフレーバーを選んで入れる、その配合を自由に変えることができる。



複数のノズルから素材をレイヤーで重ねたり、混ぜて出力できる(プレゼン資料より引用)

フード3Dプリントで資源効率や環境負荷の軽減をより向上できるのではという期待も大きい。たとえば海藻類を肉の代わりに使って食材として使うというような、経済的に魅力的で、かつ今後増加する世界人口への持続的な供給が可能な食材を材料として使う。

固形物の咀嚼嚥下が困難な人に代替フードとして提供し、かつ見た目や食感などを元の食材に近づけて提供することができる。さらに食糧生産の副産物や微細藻類、昆虫を代替栄養源として活用する取り組みも同時に行っている。

フード3Dプリントの技術的な課題

Barillaと共同開発した3DパスタプリンタはFDM方式での造形だが、それ以外にもさまざまな製法を用いた研究が進んでいる。

IJP(Inkjet Printing)、つまりインクジェット、ノズルからインクを吹き出し造形する方法だ。材料となるものの粘度が低い場合はこちらのほうが適しているという。あるいはパウダー状、粉末のものを噴射して造形する方法(PBN)、レーザーで焼却する方法(SLS)があるが、どんな食べ物を作りたいかにより、それぞれ適する方式が異なる。

FDMで造形するときに重要となってくるのは、形にするためのバランスだ。崩れないように形を作ること。そのためのパラメータや値の組み合わせは食材によって、かなり異なってくる。たとえば、パスタの材料は時間経過とともに変化してしまうので、同じ品質で生産することが難しい場合がある。

また、チョコレートのプリントは温度と時間管理が非常にシビア(キャンディよりもチョコレートのほうがずっと難しいそう)。

さまざまな造形方法(プレゼン資料より引用)

外装をシリコンで造形するのとは異なり、最終的に食べ物として人が口にするわけで、一番重要なのは味だ。どんな食材を混ぜたらおいしくなるか、あるいは粒子の大きさはどれくらいがよいのか、粘着力はどうか、解像度や出力のスピードも関係してくる。こういった非常に多くの課題があり、それらを1つ1つ解決へ進めているところだという。

電子レンジのように「入れて何分間か経ったら出来上がり」という使い方ができるよう、コンシューマ向けの機器の研究開発もすでに始まっている。

TNOが考える未来のフード3Dプリンタ(プレゼン資料より引用)

フードにおける3Dデジタルデザイナー

フード3Dプリンタの活用としてビジネスにしやすいのは、高級レストランなどで提供する付加価値の部分だが、将来的に大きな可能性を秘めているのは、いわゆる「代替フード」の部分だ。

代替フードというとちょっと語感が異なるかもしれないが、最終的には、パーソナライズドフード、自分がその日食べたいものを自分に必要な栄養素を入れて作ることもできるのではないか。

いま進んでいるのは「フードのリバースエンジニアリング」、つまり既存の食材の構造を真似て新しい食材を作る研究だ。炭水化物、タンパク質、脂肪など、さまざまな栄養素から構造の異なる新しい食材を作ることができないかということ。これは製薬開発、化粧品開発にも応用できる研究で、アメリカの企業でもこうした食べ物のテクスチャ、構造について研究が始まっているという。

TNOが作成したサンプル。上下のレイヤは空隙率が高く、真ん中は緻密な構造を取る(プレゼン資料より引用)

ただ、食品ということで安全性の保証は最重要だ。実際、各国で食品に関する規制があり、食品を扱う以上、相応の認可を受ける必要がある。

先にフード3Dプリントの造形方法をいくつかあげたが、そのうちレーザーを用いるレーザー焼結は、技術開発と同時に食の安全性を実証していく必要がある。この点について、田中浩也氏が補足で説明してくれたのだが、レーザー焼結だけ、化学反応の中で何が起こっているのかわからないところがあり、そのため加工したものが本当に安全かどうかはちょっとわかりにくい。

それ以外のFDMやバインディングによる造形については素材が安全で機械が衛生なら大丈夫と見ている(FDMが「食材を加工しているから危ない」というなら、電子レンジやフライパンで調理することも大丈夫かという話になるので)、とのこと。

2週間前にオランダに行き、TNOを訪問してきたという田中浩也教授

このあたりは遺伝子組み換え技術が登場したときのような議論になるのだろうか。

当日参加していたケイズデザインラボの原雄司氏は、フード3Dプリントに興味を持った理由を「3Dプリント、3Dデータでさまざまな構造体、テクスチャを作る技術が進み、工業の世界では成功している。今度はそれを食感にうまく応用したい。フードに対する3Dデジタルデザイナーという分野が必要なんじゃないかなと思っていて、その部分の基礎研究をしたい」と語る。

自身格闘技をしているという原氏は、最終的に、自分に必要なパーソナライズフードをプリントしたいという

TNOの日本の食と健康部門の代表 西出香氏。今後、TNOとのパートナーシップにおける日本での窓口となる

技術的な部分で、フード3Dプリントは形状や中に何を入れるかという素材についてほぼ確立し、今後は、誤ロットをどう減らしていくか、さらにテクスチャ、構造をどう3Dプリントで再現するかの部分になる。

ただ同時に、フード3Dプリントの可能性とそれによるメリット/デメリットを踏まえ、コンシューマがフード3Dプリントをどう受け入れるかの議論やそのための体験も必要になるだろう。

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