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自社のことをどこまで分かってますか?──IoT時代の「モノ」プランニング

2017.10.03 Category:【連載】IoT時代のモノプランニング Tag: ,

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プランニングをする上で、ユーザーの声を聞くことは必要不可欠です。
しかし、ユーザーの声だけを聞いてモノづくりをしてもイノベーションは起こりません。そこで、今回はマーケティングリサーチの基本となるユーザー、自社、競合という3つの視点のうち「自社」を取り上げ、その視点の重要性についてお伝えしていきたいと思います。
by 河村裕司

見落とされやすい「自社」の強み

「リサーチ」と聞いて、その対象に何を思い浮かべるでしょうか?

私は、以前ワークショップで参加者たちに対して、そのような質問を投げかけたことがあります。

30名くらいの参加者のうち、約半数の方は「ユーザー」と解答し、3分の1程度の方が「競合」と回答。「自社」と回答した人はわずか5名程度でした。

それぞれの重要さには甲乙つけがたく、どの視点が抜けても市場に対する認識は偏ったものになりがちです。

例えば、あるニーズを抱えたユーザーが多数存在しており、自社のみがそのニーズに応えられるのであればそれは機会でしょう。

しかし、他社も同様に応えられるのであれば、機会と呼ぶには相応しくないかもしれません。

自社は応えられず、他社のみが応えられるのであれば、その他社との競争関係によっては脅威にもなり得ます。このように一つの事象も見方次第で全く異なってきます。

そこで今回は、身近だからこそ意外に見落とされやすい「自社」について取り上げてみます。

IoT時代に欠かせないコラボレーションノウハウ

モノづくりへの参入が容易になったとはいえ、未経験のソフトウェアメーカーが新たに学ぶべき多くの事柄が存在するのも事実です。

量産に向けた工場開拓、新たな品質管理基準の策定、物流管理体制の構築、ユーザーサポート体制の整備、電子回路や機構設計の知識、ハードウェアを取り巻く法規制の遵守などまったく想像がつかない事がらも多いのではないかと思います。

さらにはモノ同士がインターネットを通じて繋がり、しかもそれがメーカーの枠組みを超えたオープンな環境によるものであれば、接続先のデバイスやその周辺に関する幅広い知識も要求され始めます。

考えるべきUX領域に対して、これまでは「人対モノ」でよかったものが、IoT時代では「モノ対モノ」まで考える必要があり、これらすべてを自前で解決することは、経験豊富なハードウェアメーカーですら困難とも言えます。

このような不足するノウハウをいかにして補填するかは、IoT時代における大きな課題となってくるでしょう。その鍵を握るのは、サードパーティーとのコラボレーションノウハウだと思っています。

コラボレーションというと社外にばかり目が行きがちですが、コラボレーションを考える上でも最初は自社に向けることが大切です。

自社にどのような経営資源が不足しているのか、またコラボレーション相手を惹きつける自社の強みは何なのかを考えるといった具合です。

しかし強みがない企業は、今後パートナーを開拓する上で不利な状況に置かれる可能性があるため、どのように強みを育んでいくのか、真剣に考え始めなくてはなりません。

VRIO分析とカスタマージャーニーマップによる経営資源の分析

自社の強みを評価する上では、VRIO分析が活用できます。VRIO分析とは、自社が持つ経営資源を価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Imitability)、組織(Organization)の4つの視点で評価するものです。

  • 経済価値(Value):顧客にとっての価値、応用性の高さなど
  • 希少性(Rarity):入手の困難さ、独自性など
  • 模倣困難性(Imitability):外部からの見えにくさ、仕組みの複雑さ、技術難易度など
  • 組織(Organization):(経営資源を活用するための)メンバーのスキル、社内手続き、組織構造、経営資源の重要さに対する認識など

僕は、VRIO分析の際に、カスタマージャーニーマップやバリューチーェーンなどを組み合わせながら、経営資源を分析していくことをお勧めしています。こうすることで分析に漏れが出にくくなります。

要はプランニングからユーザーがモノを手にするまでの時間の流れにも着目しながら経営資源を洗い出そうということです(難しければVRIO分析だけから始めてみてください。それでも十分に効果を感じることができるはずです)。

カスタマージャーニーマップ
顧客が製品を認知するきっかけ、購買に至るまでの過程、購買後の行動などを時系列に捉えたもの。

バリューチーェーン
調達、製造、物流、販売・マーケティング、アフターサービス、財務、人事などそれぞれを価値とみなし、その連鎖を時系列に捉えたもの。

ここでVRIO分析とカスタマージャーニーマップ(ここでは仮にユーザーの行動順序を「検索→比較→購入→利用→評価」としています)を組み合わせて架空の楽器メーカー、A社に付いて分析したところ以下のような結果が得られたとします。

◆検索

V
(Value)
R
(Rarity)
I
(Imitability)
O
(Organization)
マスメディアでの自社製品の露出の多さ
ライブハウスやスタジオへの自社製品の導入実績 ×
SEO対策のノウハウ ×
パブリシティ媒体とのコネクション × × × ×
魅力的な宣伝媒体を作成できるスキルの高いWebデザイナーの存在

◆比較

V R I O
インフルエンサーとなる著名ミュージシャンによる自社製品の使用実績
競争力の高い値付けを可能にする独自の生産・調達体制
自社製品に対して好意的なレビュワーたち

◆購入

V R I O
定期的な店頭ワークショップの開催
店頭在庫切れを避けるための流通ノウハウ ×
豊富な販売チャンネル ×
製品に搭載されたクオリティの高いデモソング × ×

◆利用

V R I O
SNSと製品の連携機能
省電力仕様 ×
優れたユーザービリティ設計

◆評価

V R I O
口コミ拡大に有効なファンコミュニティの存在 × × × ×
ユーザーからのフィードバックを組み上げる仕組み ×

上記の表からA社は、「マスメディアでの自社製品の露出の多さ」、「インフルエンサーとなる著名ミュージシャンによる自社製品の使用実績」、「競争力の高い値付けを可能にする独自の生産・調達体制」、「優れたユーザービリティ設計」に強みを持つことが分かりました。

一方で「パブリシティ媒体とのコネクション」、「口コミ拡大に有効なファンコミュニティの存在」といった点においては劣位であることが浮き彫りになりました。

また、外注利用の際に、「社内にノウハウが残らないのではないか」、「社内の人材の活用の機会を失うのではないか」という不安に直面する企業が後を絶ちません。

そういった問題を考える際にも、このような分析を行い自社が注力すべき点を明らかにすることは有効です。

ユーザーと会社の想いは一致しないもの

ある映像機器メーカーに対してセミナー講師として登壇した際のことです。一人のプランナーが深刻な面持ちで相談にやってきました。

「自分が入念に市場リサーチを重ねて考え抜いた製品のコンセプトが、いつも経営者の独断で捻じ曲げられてしまう。ユーザーインタビューを繰り返してきた自分は経営者の考えがユーザーの考えと乖離していることを知っており、経営者にもっとユーザー目線を持ってほしい」というものでした。

しかし、会社全体の仕組みや、何年も先の会社の姿を見据えている経営者の「想い」とユーザーの考えが一致することは滅多にありません。彼女が対面していた状況はごくありふれたことなのです。

僕たちのような経営コンサルタントは、経営者の考え方に誤りがあればそれを指摘し、積極的に正していくものだと誤解されがちです。

しかし、実際、多くの経営コンサルタントは、経営者に寄り添うべく、経営者の真意を汲み取ることに並々ならぬ努力を惜しみません。

プランナーにも同様の振る舞いが求められることがあります。時にユーザーだけではなく、会社のことも見ながら両者の「想い」を一致させていかなくてはなりません。

一致しない「想い」を一致させるというと矛盾するようですが、必ずしもそうではありません。経営者の直感力はそれほど信頼できるものですし、成功の形も決して一つではないのですから。

一致しない「想い」が一致したコルグの事例をお話ししましょう。コルグとその子会社VOX AmplificationによるValvetronixというデジタル・ギターアンプを企画しようとした時のことです。

コルグにはその強みであるデジタル技術を活用して、市場に新しい価値を提案したいという「想い」がありました。

一方当時のギタリストにとって、ギターの音を奏でるギターアンプは、アナログ回路で作られたものしかありえないという常識が強く根付いていており、ユーザーインタビューをしてもデジタル・ギターアンプなんてもってのほかという意見が大半を占めていました。

いくらインタビューを重ねてもユーザーと想いが一致することはありませんでした。

しかし、結果的にこのValvetronixは空前の大ヒットとなったのです。Valvetronixの登場以降、デジタル・ギターアンプの音は使えないという市場の認識も一変したように思います。

その後、デジタル・ギターアンプの市場には他社も活発に参入し、市場規模はアナログ・ギターアンプを超えるまでに成長しました。

この時に起きたことを考えるべく、再び第1章で紹介した4つの価値「情感的価値」、「機能的価値」、「使用的価値」、「芸術的価値」を元に、アナログ・ギターアンプとデジタル・ギターアンプの違いを考察してみたいと思います。

情感的価値、機能的価値、使用的価値、芸術的価値

情感的価値 ユーザーのワクワク感、憧れ、懐かしさ、哀愁といった感情を刺激する情緒的なストーリー
機能的価値 ユーザーが抱える悩みや課題を解決する実用的なソリューション
使用的価値例 ユーザーに機能価値の存在を伝え、機能へのアクセスを容易にするユーザーインターフェイス
芸術的価値 楽器の命ともいえる音質、ステージ上でアーティストの演出を引き立たせる外観など、美的感性に訴える価値など

情感的価値

アナログ・ギターアンプとは、ギタリストにとっては懐古的で情緒に満ちたロマンであり、ギタリストの歴史そのものといっても言い過ぎではありません。

それを闇雲に現代的でテクノロジー主導のデジタルに置き換えてしまったら情感的価値を大きく下げてしまいかねません。

しかし、Valvetronixはギタリストにとってのまったく新しい価値をもたらしました。それが「モデリング」と呼ばれる技術です。

「モデリング」が画期的だったのは、一つのギターアンプ本体であらゆる名機と呼ばれるギターアンプの音色を鳴らすことができるようになったことです。

新車が買えるような高級ギターアンプも例外ではありません。たった一つのDSP*で膨大な信号処理を行えるデジタル・ギターアンプに比べ、音色毎に異なる回路、スピーカー、筐体を組み合わせることが必要であった従来のアナログ・ギターアンプにはとてもできない芸当です。

DSP
デジタル信号処理に特化したマイクロプロセッサ。

アナログ・ギターアンプではない代わりに「世界中のありとあらゆるギターアンプが手に入る」という大きなリターンを提供したのです。

機能的価値

スイッチを切り替えるだけで回路やスピーカ—を組み替えるかのように、モデルとなるアンプの音を再現するValvetronixの機能的価値は、当然ながら高いものとして多くのギタリストたちから受け入れられました。

さらには複数のアナログ・ギターアンプを所有することに比べて省スペース化を実現し、生産の自動化が進んだことで信頼性や保守性も高まりました。

また、アナログ・ギターアンプはその特性上、大音量でなければベストな音色を鳴らせませんが、デジタル・ギターアンプはそうではなく、どんな音量でも最大にポテンシャルを発揮できます。

小さい音でも良い音で鳴らすことができるため自宅の練習や当時、流行していたホームレコーディングのニーズにも上手くマッチしました。

使用的価値

実際、アナログ・ギターアンプのシンプルなレイアウトや操作手順は、アンプ本来の機能的価値を引き上げるべく上手く設計されたものが多く見受けられます。

しかし、Valvetronixではアナログ・ギターアンプのUIを単純に真似ることを考えるのではなく、個性的なデジタル・ギターアンプの機能に見合った使用的価値を敢えてゼロから考え直すことにしました。

あらゆるギターアンプの音色が鳴らせるようになれば、ギタリストは様々な気分や用途に応じて音色を使い分けたくなります。

そこで、それぞれの音色のセッティングを本体に記憶させて瞬時に呼び出せるメモリー機能を搭載しました。

さらには世界的に著名なギタリストたちとも協力して彼らがValvetronixだけのために作成したセッティングもプリセットメモリーに含めることにしました。

芸術的価値

Valvetronixの企画では、中の回路構成は従来のギターアンプとは大きく異なるものの、外観はアナログ・ギターアンプから大きく変えないことをポリシーとしていました。

当時は市場がまだそこまでの極端な変化は受け入れる準備ができていないと思っていたからです。ギタリストがギターを抱えValvetronixの前に立てば、その佇まいは見ている人に何の違和感も感じさせることはないでしょう。

音色に関しては、非常に耳が肥えたギタリストを除き、ほとんどのギタリストには区別できないくらいまでにアナログ・ギターアンプの音色に近付きました。

しかし、それでもアナログ・ギターアンプ独特の音色が存在することは否定できません。アナログ・ギターアンプだけでしか生み出せない空気感、音の歪み方、抑揚というものがあり、設計者はこれらのメリットを活かしながら音を仕上げていきます。

つまりValvetronixの戦略の要は芸術的価値の微減を大きく上回るほどの、機能的価値を提案するというものでした。

なぜ、ユーザーと会社の想いは一致しないのでしょうか?それにはいくつかの理由があります。

  1. そもそも人は過去のプロセスや築き上げられた価値観を否定するような発言をためらうことがある。従って、ユーザーの発言が必ずしも本音であるとは限らない
  2. ユーザーは作り手の社内の事情には関心がない
  3. ユーザーの関心は「今」であるが、作り手の関心ごとは「将来」である
  4. ユーザーは自分や友だちに着目しがちだが、作り手は周辺業界や海外市場なども含むマクロな視点で周辺に着目している
  5. そもそもユーザーと作り手がイメージしている完成品のクオリティに乖離が存在しやすい

など、これ以外にも挙げようとすればキリがありません。

このようなユーザーとつくり手の立場の違いを鑑みれば、モノづくりの出発地点で両者の想いが一致しないのは、ある意味当然なのです。

iPhoneがリリースされる前に多くの否定的な意見があったことを覚えてますでしょうか?

「iPhoneでなければ受けられないサービスというものは特段存在しない」、「電話にしては巨大、パソコンにしては役不足」、「UXが音楽でしか特徴付けられていない」など否定的な見方の方が多かったように思います。

iPhoneが大ヒットした今、そういった非難めいたことを言う人はほとんどいなくなりました。

iRobotのロボット掃除機、ルンバが2002年に発売された直後はどうだったでしょうか?当時の売れ行きは芳しくなく2008年までは赤字続きだったと言われています。

その後の快進撃はみなさんの知るとおりです。多くのフォローワーも輩出し、ロボット掃除機という一つの家電カテゴリを築き上げるまでの製品に成長しました。

本章の終わりに向けて

ユーザーの声を聞くとことの大切さは言うまでもありませんし、ユーザーに会えば会うだけプランニングの精度は確実に高まってきます。

しかし、決してそれをユーザーが望むとおりのモノを作るということと誤解してはいけません。

僕は、顧客の声を聞きながら感動や驚きを生むことができるのは、ユーザー、自社、競合のすべてを冷静に見ることができる作り手に与えられた特権だと思っています。

そして、プランニングに関わろうとしている読者のみなさんにはその特権を存分に謳歌しながらユーザーの期待を遥かに上回るような製品を生み出してほしいと思います!

(執筆:河村裕司 イラスト:高田真弓)

■IoT時代の「モノ」プランニング レポート一覧


●著者プロフィール

河村裕司
経済産業大臣登録 中小企業診断士。株式会社コルグ開発部。自社ブランド、他社とのコラボレーションなどにおいて電子楽器のプロデュースを行う。代表作にKORG KAOSS PAD 3、KAOSS PAD mini。VOX Valvetornix、ToneLabなど。担当製品の受賞歴にヨーロッパ最大の楽器見本市Musik Messe主催、Mipa AwardにおいてBest DJ Tool/Software賞、米国DJ Mag紙主催、TECH AWARDSにおいてInnovative New DJ Product賞など。朝日中小企業経営情報センター発行の情報誌「ACC INFORMATION」No38に執筆論文「愛されるモノづくり」を掲載中。Facebookはこちら

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