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独創アイデア、技術力を持つ小中高生クリエータの11プロジェクト─今、未踏ジュニアが生み出すもの

2017.12.01 Category:勉強会・イベント Tag:

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2020年度から小学校でのプログラミング教育の必修化がスタートするなど、いまSTEAM教育が熱い。
実務としてのプログラミングスキル以上に、論理的な思考、そのプログラミング的な考え方を培うことが大きな目的だ。
だが、大人がレールを敷く以前に子どもたち自身がすでに何歩も先を行っているのかもしれない。そう感じさせてくれたのが、「未踏ジュニア2017」の最終成果報告会だ。
by 大内 孝子

未踏ジュニアとは?

未踏については、エンジニアであればほとんどの方がご存知だろう。ざっと、概要をさらうと、未踏はIPAが2000年度に「未踏ソフトウェア創造事業」として始めたプロジェクトだ。

2008年度により若い人材の発掘・育成に重点を置き、「未踏IT人材発掘・育成事業」として再編された。現在、2つの事業を総称して「未踏事業」と呼ばれる。

能力・実績のあるプロジェクトマネージャー(PM)のもと、新規性、独創性といったテーマにより選抜されたプロジェクトに対し、継続的な開発支援(資金、メンタリング含め)を行い、ゴールまで導くというもの。

事業終了後、特に優秀であると評価された候補者を「未踏スーパークリエイタ」と認定している。2016年度までに合わせて297名の「スーパークリエータ」が誕生し、IT系のクリエイターの登竜門として広く認知されている。

2016年より始まった「未踏ジュニア」は言葉のとおり「未踏」のジュニア版で、本体の「未踏」が公募対象を25歳未満としている(2011年度より)のに対し、17歳以下の小中高生および高専生を対象として行われる人材育成事業だ。

未踏ジュニアの運営母体である「社団法人未踏」は、未踏事業のOB/OG、関係者らを中心に設立された組織で、「未踏」の統括プロジェクトマネージャ・竹内郁雄氏が代表理事を務める。

未踏ジュニア実行委員会(未踏PM/OB/OG、関係者)の皆さんと未踏ジュニアたち

2017年度の実施概要は、4月1日時点で17歳以下の個人および、これらの年齢で構成されたグループ(最大4人)を対象に、期間は6月中旬から10月まで。その間、プロジェクトマネージャー(PM)のもとアイデアの実装を目指すという形で行われた。

未踏本体と同様、アイデアだけではなく、最終的には実際に動くプロトタイプまで作り込む(さらにはユーザーテストまで)ことが求められる。

10月22日に最終成果報告会が行われ、11プロジェクトがそれぞれの成果を発表した。以下では、最終成果報告会で発表されたプレゼンの中から、個人的に興味深いと感じたプロジェクトをいくつか紹介したい。

映画や本のストーリーを自然言語処理技術で

まず紹介するのは、菅野プロジェクト(米辻PM)による「narratica〜ストーリーコンサルタント〜」。

菅野楓さんは、自然言語処理技術を使って映画や本のストーリーを解析し、理解をうながしたり、ストーリー構成の提案を行うなどの創作支援エディタを開発した。

発表する菅野楓さん(早稲田実業学校中等部)

これまでの読書経験から物語に類型があることに気づいていたという菅野さん。その考え方を映画に適用し、ヒット作=多くの人たちからの支持を受けた=優れたシナリオ、として該当作のシナリオを言語解析することで、「ヒット作の黄金パターン」ともいうべきストーリーの流れを明示しようというもの。

可視化することにより、一部の天才だけではなく、誰もがその流れを使って「たくさんの人たちをワクワクさせる物語」を作成することができるようになる。

小説や映画、ドラマ(あるいはゲームも)の物語作成において、登場人物に感情移入した観客の感情をどう引っ張って、カタルシス獲得まで導くかといったメソッド、鉄則的な方法論は実際いくつか存在する。

たとえば、シド・フィールドによって理論化された構成技法に「三幕8場」がある。これは、八場を一幕、二幕、三幕のまとまりに分け、

  • 一幕(1〜2場):設定
  • 二幕(3〜6場):葛藤
  • 三幕(7〜8場):解決

として役割を持たせるというものだ。さらに、その3つの幕の比は1:2:1とされている。この三幕8場は、主に映画の脚本を対象に確立されたものだが、いまでは広く、ゲームや小説などにも応用されている。

三幕8場の構成(菅野さんのプレゼン資料より)

『君の名は。』の新海誠監督も、以前Twitterで『君の名は。』の脚本執筆時の資料を投稿していた。本編最終とは異なる、としながらも、時間軸の中での観客の感情・テンションの変化をとらえようと試行錯誤していたことに言及している。

菅野さんは自然言語処理を使ってヒット作のシナリオを分析した。まず、形態素解析エンジンMecabを使って文章から単語を切り出し、東工大奥村研究所の辞書を用いて感情極性分析(いわゆるポジネガ判定)を行った。

具体的には、『スピード』のシナリオを使って、登場人物(ジャック:主人公、アニー:ヒロイン)のセリフを分析した。すると、それぞれのシーンで提示される感情を数値にすることができる。

『スピード』のシナリオで分析(菅野さんのプレゼン資料より)

そして、「単語に割り当てられた感情から受け手の大まかな感情の推移を数値にし可視化する」という仕組みを使って菅野さんが作ったのが創作支援エディタ「narratica」だ。

創作支援エディタ「narratica」(菅野さんのプレゼン資料より)

入力した文章が示す感情を参照しながら書き進めることができるというもの。これによって何が可能かというと、

  • ロジックで物語を作ることができる
  • (しかもそれを)客観的なデータで裏打ちできる

ことになる。

物語のおもしろさに、魅力的なキャラクターは欠かせないが、キャラクターデザインの機能は今後の課題だ。菅野さんは「最終的にはヒットの法則を明らかにしたいという壮大なアイデアへの無謀なチャレンジを続けていく」という。

物語の類型に気づきながらも、すばらしい小説や映画は天才的な人が作るとつい思ってしまうもの。でもそれは、逆に言うと、自分にもいつか何か降りてきたらそのときは書けると思いたいだけなのかもしれない。人を引きつける物語は天才や巨匠だけが作れるわけではない、と菅野さんが示すアプローチは、それは単に怠惰なだけなのだと思い知らされる。

質疑応答では、「発達障害などの影響で読書に集中することが難しい人への読書サポートに活用できるのではないか」「(映画や小説、アニメなど)メディアフォーマットにより、必要な感情の起伏は異なるのではないか」などの意見が出され、いずれもnarraticaの可能性を示すものといえる。

「がんばって覚えた漢字」をレーザーカッターで刻印する暗記クッキー

会場で、実際に焼いてくれたのが中筋絢香さんの「暗記クッキー」(鵜飼PM)だ。

中筋さんは、現在、海外に留学中。海外に住んでいるため漢字を覚えるモチベーションが低いという自分や周囲の日本人子女の問題を解決するソリューションとして、このシステムを考えたという。

発表する中筋絢香さん

小学生が6年間で習得しなければならない漢字は1006字ある。これは思ったより多い。「そんなに?」という感じがする。実際、日本にいても大人でも、「書く」力の衰えは、かなり前から問題視されている。

中筋さんが考えたのは、該当の学年で習得すべき漢字の書き取りテストを行い、間違えたものは繰り返し出題、最後まで残った漢字を「がんばって覚えた漢字」として、クッキーの型になる画像を生成するというもの。


アイデアおよび実装イメージ(中筋さんのプレゼン資料より)

テストはWebベース(HTML/CSS/JavaScript)で作成し、「がんばって覚えた漢字」をCVSファイルに書き出し、Pythonプログラムで画像生成している。レーザーカッターで描き込む部分はありもののプログラムを利用した。

レーザーカッターで覚えた漢字をクッキーに刻印する

クッキーへの刻印は最初は半田ごてで試したがうまくいかなかったため、レーザーカッターとなったそう。

このソリューションでは、最後は「がんばった漢字が刻印された実物のクッキー」をその人に届けることを想定している。クッキーを物理的に届ける仕組み、そして、まわりの人を巻き込む方法を探っていきたいという。

質疑応答では「多言語化できないか」との声があった。

個人的には、言葉(漢字)という概念的なものが、自分が覚えたご褒美としてクッキーになってリアルに現れるという点におもしろさを感じる。

さらに、生成した2D画像から3Dモデルに展開できれば、(今後普及するかもしれない)食品用の3Dプリンタにも出力でき、漢字そのものの形も可能なのではないか(画数が多いとつぶれるとかありそうだが)と妄想が広がってしまったプロジェクトだ。

FRPの概念に触れられるビジュアルプログラミング言語の開発

大野智葵さんと鈴木颯介さんの二人が開発したのは、FRP(Functional reactive programming)というプログラミング概念を学習するためのビジュアルプログラミング言語、および、それを用いたWebサービスだ(大野プロジェクト・安川PM)。

そもそもFRPとは何か的な話になるのだが、このプロジェクトの発端は大野さんの小学生時代の疑問だったという。小学生の頃にはじめてプログラミングに出会うが、そこで「マウスの軌跡を画面に表示するプログラム」を書くという課題に、ある疑問を持つ。

「なぜ、マウスの変化を自分で取りにいかなければならないのか? 変化があればそれに反応してくれればいいじゃないか」と。

「そういうものだから」と、お作法どおりにプログラミングを学んだ大野さんが3年後に出会ったのが「Elm」という、FRPの概念を持ち込んだプログラミング言語(現在のバージョンではFRPとは言えない仕様になっている)。

「あのとき自分が出会いたかったのは、これだ!」と、小学生の頃の自分がもっと早くFRPを理解する助けになる何かやりたいというのがモチベーションだった。

左:鈴木颯介さん、右:大野智葵さん

そして、出来上がったのが「Vamboo」だ。すでにWebサービスとして公開されている。ランタイムからエディター部分まで自作し、オープンソースとしてGitHubで公開している。GUIパーツや関数をプロックのように配置して、つなぐことでプログラムを組んでいく。「Reduxで表現できることは(Vambooでも)表現できる」とする。


Vambooのデモ(プレゼンより)

今後、チュートリアルの整備や教育用にとどまらず、展開していきたいという。

この他、全部で11プロジェクトの発表があった。すべて紹介しきれなかったが、いずれも”ジュニア”とは思えない成果を見ることができた。

  • 佐々木PJ(関PM)/個人の経験に紐づいた楽曲を推薦するスマートフォンアプリケーションの提案
  • 田中PJ(関PM)/学校現場における情報共有やスケジューリングを支援するウェブアプリの提案
  • 矢野PJ(米辻PM)/見守りフォトスタンド
  • 霜田PJ(寺本PM)/Fall in Friends~東京オリンピックに向けて、日本のインバウンドを変えるアプリを作る ~
  • 加藤PJ(寺本PM)/DrawCode〜ブロックをつなげて自由にHTMLを描こう〜
  • 根本PJ(笹田PM)/”聞く”キーボード
  • 山田PJ(西尾PM)/SmileI/OT
  • 大塚PJ(鈴木PM)/「らくらく読み読み

終了後、PM全員からのコメントが述べられたが、ここでは鵜飼佑氏のコメントを引用する。


「これは本当に始まりなので、今後どういうチャンスがあるのか。それをつかみに行ってほしいと思います。そして、これは大人に対しての話になるのですが、いかにエンジニアの人たちが社会にかかわっていくのかということが今後非常に大事になってくると思っています。

プログラミング教育が学校に入っていく中でみんなが同じものを作ってOKみたいな話になってくるのは、よい方向ではあるのですが、懸念が1つあります。作りたい何かを作って学んでいくというのが一番楽しいし、そこに学びが多いはずです。

しかし学校教育において、それがやはり難しいというのが現実です。その中で、本当は可能性があって大きく展開できたはずの才能をつぶしてしまう可能性があるというところ、そこを危惧しています。こうしてエンジニアの私たちが、かかわっていける方向性をもっと作っていきたいと思っています」(鵜飼)


なお、この中から未踏ジュニアスーパークリエータとして6名が認定されている。彼らには、2018年度の未踏事業への推薦が与えられた。

こうした、より若い層を対象にした人材育成事業は、もちろん、才能のある人材を早期に発見し育成することがメインの目的だが、実際には、ターゲットである”若い層”だけではなく、具体的な事例を世の中に示すことで、エンジニア/非エンジニア含めて、より多くの人たちへ刺激を生むことにつながっているのではないか。


☆全発表の動画が掲載されている未踏ジュニアのホームページはこちらのリンクから。


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